31 / 112

第31話

「こんなにたくさんもらっていいんですか」 「もう使わないからね。もしもわからない所があったら、いつでも教えてあげるよ」 「本当ですか」  山積みの本は、夕侑にとってはありがたいものばかりだ。嬉しくて順々に手に取っていたら、不意にあいた窓から誰かが飛びこんできた。 「――っ」  驚いて本を床に落とす。大きな獣の影に、恐怖を感じてとっさにドアまで走って逃げた。 「おい、獅旺っ」  部屋の真ん中に四本足ですっくと立ったのは、尾の長さを含めて全長が二メートルを超えるであろう、立派な体躯の獅子だった。 「いきなり入ってくるなよ。大谷君がビックリしているだろう」  白原が獅子を怒る。すると大柄な獣は、口角を持ちあげ低く唸った。  かるくジャンプして身をひるがえすと、あっという間にヒトに変身する。素裸の獅旺が目の前に現れて、夕侑は慌てて目をそらせた。 「何だ。いるとは思わなかったんだ」  悪びれない言い方でふたりに背を向けると、壁のクローゼットまで歩いていく。 「その恰好で、いったいどこに?」 白原が呆れ声でたずねた。 「森を駆けてきた。毎日走らないと、身体がなまるからな」  クローゼットの中から服を取り出しながら獅旺が答える。いけないと思いつつ、その姿をそっと盗み見した。  見るからに屈強そうな逞しい身体。背中から腰のラインは硬くストイックな魅力に満ちている。夕侑は胸の昂りを覚えて、やましさに目を伏せた。 「驚かせてすまなかったな、大谷」 「……いえ」  獅旺はボクサーパンツをはき、Tシャツに腕を通しながらきいてきた。 「で、そっちは何をしてるんだ」

ともだちにシェアしよう!