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第33話

「僕、もう部屋に戻ります。白原さん、ありがとうございました」  獅旺が不機嫌そうな様子になったので、夕侑はもらった本を手にドアへ向かった。 「わからない所があったら、いつでもおいで」  笑顔で言う白原に頭をさげ、ドアノブを掴んだ所に声がかかる。 「大谷」  名前を呼ばれて、夕侑は獅旺を振り返った。 「この前、獅子が怖いのは、昔怖い目にあったからだと言ったな」 「え、ええ」  獅旺は壁にもたれて、こちらを見ている。夕侑を怖がらせないようにするためか、距離は取ったままだ。 「俺の仲間は、過去にお前に何をしたんだ」 「……」  いきなり直截に問いかけられて戸惑った。センシティブな話題を無造作に持ち出すのは、やはり白原が言うように、この人は少し配慮に欠ける所があるようだ。  けれど、そういう相手ならなおさら、ハッキリ伝えないとわかってもらえないだろうと思った。  夕侑は顔をあげて、相手をまっすぐに見返した。 「僕ではないのですが、友人が獅子族アルファに襲われて、死んだんです」  そう告げると、獅旺の目が見ひらかれた。  夕侑はその姿に、言ってしまった後悔と、同時に言わせた相手を責める怒りを覚えた。気持ちが昂り、言葉が続いて出てしまう。 「同じ施設にいた、同級生のヒト族オメガでした。中学一年のとき、一緒に街に遊びに出て、彼は運悪く、初めての発情に襲われたんです。ちょうど近くにいた獅子のアルファがバーストして、友人に襲いかかって、見ている人も多い中で……」  言いながら、夕侑はそのときの光景を、ありありと思い出した。

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