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第34話

 友人にのしかかり、服を引き裂いて、雄の象徴を無理矢理ねじこむ大柄な獅子。泣き叫びながら助けを求める友。  夕侑は足がすくんで、何もしてやれなかった。  ――イヤだっ、 いやっ、やめて。――ああ……助けて、イヤ、ああ――……もっと、して、イや、してっ。……ああイい、いい、いいッ……。  混乱しながら発情にのまれていく友人。パニックになる周囲の人々。バーストした獅子は、友人の首輪を噛みちぎろうとして、肩や頭に喰いついた。 友人は意識が朦朧となりながらも、最後は悦楽に笑っていた。  それが、何よりも、怖ろしかった。 「……」  夕侑の告白に、獅旺も白原も黙りこむ。 「僕は、彼を、助けてやれなかった」  瞳を落として、小さな声で呟く。  いつも一緒にいた親友を失って、あのころの夕侑は、本当に地獄の底にいるような思いだった。 「その友達は、抑制剤を持っていなかったのか」  冷静な声で、獅旺がたずねてくる。 「はい。その日は、持っていませんでした。まだ大丈夫だろうと考えていたんだと思います」 「だったら、お前の友達にも落ち度はある。オメガのフェロモンにあてられたら、我々アルファは自我を保つのが難しい」  夕侑はうなずくしかなかった。  たしかにその通りだったし、警察にも言われた。『交通事故にたとえるのなら、暴走車はオメガのほうになるんだよ』と。  獅旺の言うことはもっともだ。けれど一般論と感情は違う。法律家のように冷たく判断されて、夕侑は悲しみに胸が締めつけられた。  アルファにオメガの苦しみはわからない。  夕侑は下を向いたまま、ふたりに挨拶すると、部屋を出ようとした。  すると、獅旺がつかつかと近よってくる。

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