35 / 112
第35話
何か大きな感情に突き動かされるようにして、夕侑の腕を掴んだ。
「アルファは、オメガを襲うためにいるんじゃない」
「――」
驚く夕侑にかまわず、強い眼差しで見つめてくる。
「アルファは、オメガを、守るためにいるんだ」
「……ぇ」
獅旺は、夕侑が嫌がっていることを忘れてしまったかのようだった。手に力をこめて、グッと自分のほうへと引きよせる。
「運命の番、という言葉を知っているか」
唸るように言われて、肩がヒクリとはねた。
――運命の番。
それは、アルファとオメガの間だけにある、特別な絆だった。
どのアルファにもたったひとり、この世で一番惹かれあうオメガが存在する。
その相手とは、出会った瞬間に互いに恋に落ちるのだ。一目惚れのように。そして身も心も求めあう。まるでひとつにならなければ死んでしまうというかのように。魂の片割れ。完全なる陰陽。人生を支配しあう命より大事な相手。
神様だって、ふたりの仲を引き裂くことはできない。
「……知ってます」
けれど、自分には関係のない存在だ。
「どうして、そんな関係がアルファとオメガには存在するのか知っているか? それは、弱いオメガをアルファが守るためなんだ。オメガは、運命のアルファにだけは、誰よりも優位に立つことができるから」
「……え」
「アルファは、運命の相手を守るためだったら命も投げ出す。何もかもを、捨ててでも、絶対に守り通そうとする」
ともだちにシェアしよう!