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第35話

 何か大きな感情に突き動かされるようにして、夕侑の腕を掴んだ。 「アルファは、オメガを襲うためにいるんじゃない」 「――」  驚く夕侑にかまわず、強い眼差しで見つめてくる。 「アルファは、オメガを、守るためにいるんだ」 「……ぇ」  獅旺は、夕侑が嫌がっていることを忘れてしまったかのようだった。手に力をこめて、グッと自分のほうへと引きよせる。 「運命の番、という言葉を知っているか」  唸るように言われて、肩がヒクリとはねた。  ――運命の番。  それは、アルファとオメガの間だけにある、特別な絆だった。  どのアルファにもたったひとり、この世で一番惹かれあうオメガが存在する。  その相手とは、出会った瞬間に互いに恋に落ちるのだ。一目惚れのように。そして身も心も求めあう。まるでひとつにならなければ死んでしまうというかのように。魂の片割れ。完全なる陰陽。人生を支配しあう命より大事な相手。  神様だって、ふたりの仲を引き裂くことはできない。 「……知ってます」  けれど、自分には関係のない存在だ。 「どうして、そんな関係がアルファとオメガには存在するのか知っているか? それは、弱いオメガをアルファが守るためなんだ。オメガは、運命のアルファにだけは、誰よりも優位に立つことができるから」 「……え」 「アルファは、運命の相手を守るためだったら命も投げ出す。何もかもを、捨ててでも、絶対に守り通そうとする」

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