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第36話
瞳に宿る、力強い光に吸いこまれそうになる。身体がピリピリとしびれた。
この人は、何を言おうとしているのか。
「お前の、運命の番は――」
「いません」
さえぎるように言い切った。
「いません。僕のそんな、人は」
獅旺の目が、不思議そうに眇められる。
「……手を、放してください」
「そんなわけないだろう。すべてのオメガには、運命の番がいる」
「だったら、僕の、番は、すごく遠い所にいます。一生、出会うことのない場所に」
「どうしてそう思う?」
「……」
夕侑は相手を強く見つめ返した。
獅旺も言葉を引き出すために睨みつけてくる。
「……少なくとも、この学園にはいません。それだけは確かです」
断言すると、獅旺は納得できないという顔をした。
「お前は何も感じないのか? 俺とこうしていて」
見つめられると、全身がビリビリした。まるで電気が流れているかのように。
それは相手も同じなのだろう。獅旺の手もわずかに震えている。
「俺はすぐにわかった。入学式に、壇上からお前を見つけて――」
けれど、夕侑はかたくなに首を振った。
「何も、感じません。あなたが何を言おうとしているのか、僕にはまったくわかりません。すみません」
息をつめながら、もう一方の手で、獅旺の手を引きはがす。
そのまま目をそらし、ふたりに頭をさげて、逃げるように部屋を出た。
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