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第37話 ショーの誘い

 獅旺の次の言葉を、夕侑はわかっていたかもしれない。  しかし、それを聞くのは怖かった。  ――運命の番。  それは、自分の未来には必要のない存在だ。  運命のアルファがオメガを守ってくれるというのなら、死んでいった友人には、どうしてその相手が現れなかったのか。彼はなぜ、あんなふうに死なねばならなかったのか。  運命の番に出会うことなく人生を終える者も多い。出会えること自体、幸運で奇跡的なのだ。その奇跡と幸運を、何の苦労もせずに受け取ることに、夕侑は罪悪感しか覚えないのだった。  部屋に戻った夕侑は、もらった本を整理して本棚に立てかけた。勉強の続きをする気になれなくて、ベッドに横になる。そうして獅旺のことを考えた。  あの人と自分は、住む世界と価値観が違いすぎる。たとえ彼が運命の相手だとしても。  損得だけではかれないのが運命の番ではあるのだけれど、実際に御木本グループの御曹司が、施設育ちの孤児などと番えるはずがない。夕侑の感情を抜きにしても、無理な相手なのだ。  あきらめの苦笑を浮かべながら目をとじる。しばらくそうしていたら、ポケットのスマホが呼び出し音を鳴らした。 取り出して見てみると、メッセージが届いている。夕侑は横になったままトークアプリをひらいた。 『久しぶり。元気ですか』  と話しかけてきたのは、施設時代に知りあった(とどろき)という名前の友人だった。何の用かと、すぐに返事を入力する。 『元気です。轟さんも元気ですか』  夕侑は身を起こして、次のトークを待った。 『僕も元気だよ』  数秒たたずに、笑顔の絵文字と共に、文章がポップしてくる。

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