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第39話
翌日の昼休み、夕侑は校舎の二階の廊下のすみで、窓枠に肘をついて轟に何とメッセージを送ろうかと悩んでいた。
せっかくの誘いに大喜びの返事をしておきながら、やっぱり無理です、と断りを入れるのがためらわれる。
きっと彼はがっかりするだろう。久しぶりの外出が許可されなくて、夕侑は憂鬱な気持ちで窓から空を眺めた。
ため息をつきながら、ポケットのスマホを取り出そうとしたら指先に小さなものがあたる。それはいつも持ち歩いているサニーマンのストラップだった。
夕侑はストラップだけを取り出して、太陽にかざしてみた。
――サニーマン、サニーマン。
幼いころは、彼に助けを求めたものだったけれど。
紐を指にはさみ、古ぼけたヒーローをユラユラと揺らしてみる。どうしようと考えながら眩しい光に目を眇めたら、指先がすべってスルリとストラップを窓の外に落としてしまった。
「――あ」
小さなヒーローが、茂みに囲まれた花壇に消えていく。
「しまった」
夕侑は焦って窓から身を乗り出した。けれど小さな人形の姿は見つからない。
「まずい」
自分の持ちものではないのに、なくしてしまったら大変だ。
急いできびすを返し、廊下を走って階段を駆けおりて、外履きにはきかえ校庭に出る。
ツツジやツバキに囲まれた一画へ向かい、低い木々をかきわけて花壇のほうへと進むと、そこにはなぜか獅旺が立っていた。
「……」
手に何かを握りしめ、花壇の脇に佇んでいる。
近よっていけば、夕侑の立てた物音に、つと顔をあげてきた。
「どうして……」
彼がここに。
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