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第40話
その問いに答えるように、獅旺が言った。
「お前が、二階の窓から、ストラップを落とすのを見ていたから」
「え……、……見て、た?」
「昼休みは、いつもあそこでぼんやりしているだろ」
夕侑はビックリした。たしかに食堂で昼食をとった後、教室に戻る気になれなくて、廊下のすみで外を眺めていることが多かった。
それを、この人は知っていたのか。
獅旺は手をさし出してきた。大きな手のひらにはストラップがのっている。
少し離れた場所から、夕侑は小さな人形を見つめた。受け取ろうとはせず、かわりに別のことを言う。
「……それ、獅旺さんのですよね……?」
あごを引いて、俯きがちに告げると、獅旺が眉をよせた。
「だって、あなたの、匂いが、ついていたから……」
そうだ。夕侑は最初からわかっていた。このサニーマンには、獅旺のアルファフェロモンがしみこんでいた。
夕侑の言葉に、獅旺が目をみはる。
「俺のものだとわかっていて、なのに、捨てずに持っていたのか」
「……え、はい」
「嫌じゃなかったのか?」
相手が驚いた声をあげたので、夕侑は少し身をひいた。
「だって、大好きな、サニーマンの、ストラップだったから」
それだけが理由ではない気がしていたけれど、言い訳のように口にする。
「サニーマンは僕にとって、とても特別なヒーローなんです。だから、捨てることなんてできなかった」
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