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第41話

 夕侑の言葉に、獅旺はどうしてか、あてが外れたような表情になった。望む答えが得られなかったというように顔から力が抜けていく。黙りこくってしまった獅旺に、夕侑は続けた。 「……けど、それをあなたが、匂いがつくほど大切に持っていたのなら、あなたにとっても意味のある存在だったんじゃないのですか。なのになぜ、簡単に捨てるようなまねを」 「捨てたわけじゃない」 「でも自分のものじゃないって、嘘を」  責めるつもりはなかったが、つい言ってしまう。  獅旺はため息をついた。 「……まいったな」  そして栗色の髪をかきあげる。  嘘がバレしてしまい、観念したといった様子だった。 「そうだ。たしかに、自分のものじゃないと嘘をついた」  広い肩をすくめて、ちょっと口を尖らせる。らしくない子供っぽい仕草だった。 「それは、好きだと認めるのが恥ずかしかったからだ。サニーマンは、子供向けのキャラだからな。白原なんかに知られたら、それだけでいじられそうだったし」 「……」 「いい年して、こんな小さなストラップを後生大事に持っていることを、お前に知られたくもなかった」  憮然とした顔で釈明するが、照れくさがっているようにも見える。そんな表情を見るのは初めてで、夕侑は見間違いかと目を瞬かせた。  獅旺が手のひらのストラップに視線を落とす。 「……この人形は、俺の子供のころの宝物だったんだ」  自分の過去をたどるようにして話す声は、思いがけず穏やかだった。口の端がわずかにあがり、魅力的な微笑みが浮かぶ。夕侑は目を大きく瞠って、その姿を眺めた。 「……あの」  そっと相手に呼びかける。すると、獅旺が視線をあげてきた。

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