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第44話

「おはようございます。獅旺様」 「ああ」  五十代とみられる運転手が後部ドアをあけてくれる。夕侑は運転手に挨拶をしてから、おずおずと乗りこんで獅旺と隣同士に座った。  車で一時間ほどの距離にある富士遊園地に向かう間、獅旺はスマホのアプリで遊園地を調べて、あれこれと夕侑に質問してきた。どうやら本当に遊園地にはいったことがないらしい。 「父親がゲームやアニメ、遊園地などの娯楽一切を、時間の無駄遣いだと馬鹿にしていたからな。その影響で、俺も遊びらしい遊びは子供の頃からしたことがなかった」 「そうなのですか」 「それがあたり前だと思っていたから、さほど苦ではなかったが。この学園の寮にきてからやっと自由に趣味に手を出せるようになったな」  言いながらも、遊園地の画像を見る獅旺の目は興味深げだ。 「僕も、ゲームやアニメ、遊園地とも縁がない生活でした。もっとも僕の場合は、そんな余裕がなかったからですが」  ゲーム類は、クラスメイトが持っているのを、うらやましげに遠くから眺めるだけだった。  外の景色に目を移して、ふっと苦く笑うと、獅旺が顔をあげてこちらを見ているのに気がついた。 「あ。……すみません、こんな話してしまって」 「いや。そうだったのか」  自分には思いもよらない生活をしてきたのだと知って、いささか驚いているといった表情だった。  夕侑はせっかくの休日を暗くしたくはなくて、もうその話は打ち切りにし、自分もスマホを取り出して遊園地の乗り物について一緒に調べて話をした。  そうしているうちに、車は目的地に到着した。運転手は駐車場で待機するらしく、ふたりで車を降りて入り口に向かう。  入場券売り場で一日券を買おうとしたら、獅旺が先に二枚買って手渡してきた。

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