45 / 112

第45話

「……え? いいんですか」 「構わん」 「けど」  一日券は割と高価だ。ありがとうございますと、すんなりもらうのは気が引ける。夕侑だって、ほんのわずかだが自由になる金はある。  ディバッグから財布を取り出そうとしたら、獅旺がちょっと困り声で言ってきた。 「なんだ? 別にお前の境遇に同情したわけじゃないぞ。俺が誘ったんだから、俺が払うのが当然だと思っただけだ」 「けれど、それは獅旺さんの大切なお小遣いからでてるんですよね」  彼ほどの金持ちがどれくらいの小遣いを親からもらっているのかは知らないが、自分のために小遣いを減らさせるのは申し訳ない。  すると、獅旺はますます眉間に皺をよせて言った。 「これは親からもらった小遣いじゃない。俺が稼いだ金だ」 「えっ」  アルバイトでもしているのだろうか。生徒会と寮長の仕事でずいぶんと忙しいと思っていたのだが。 「株と投資でいくらか貯めている。だから親の金じゃない」 「ええ……。そうなんですか」  夕侑は、高校生とは思えない金の増やし方に驚いた。 「別に珍しくもない。学園の高位獣人の中には、同じように自分の得意分野を生かして小遣い稼ぎをしている奴がいる。ソフトを開発したり特許を取ったりな」 「……はぁ」  アルファ獣人が、頭脳や体力の面で優秀なのはわかっていたが、夕侑たちオメガやべータとはアルバイトもレベルが違うらしい。 「だからその入場券は、お前の今日のバイト代だとでも思っておけばいい」  そう言うと、夕侑を入場ゲートまで促した。  俺様なのに妙に紳士的なふるまいに、夕侑はいつもの威圧感を覚えることもなく、それ以上に何だかペースを狂わされてしまい戸惑うしかなかった。

ともだちにシェアしよう!