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第49話

「こちらです」  ショースペースには、大きな舞台と百人ほどが座れるベンチが設置されていた。舞台の裏に板塀の囲いがあり、入り口にカーテンがかかっている。  夕侑はその前に立つスタッフに轟の名前を伝えた。スタッフが中に入って彼の名を呼ぶと、ほどなくしてカーテンの奥から大柄な男が出てきた。  ジャージ姿で頭にはタオルを巻いた、数ヶ月ぶりに会う轟だった。 「やあ、夕侑君。久しぶりだね。元気そうだ」  彼が笑顔で歓迎してくれたので、夕侑も微笑みながら挨拶を返した。 「こんにちは轟さん。今日は誘ってくれてありがとうございます」  轟は犬族ベータなのに、熊のような風貌をしている。若いのにあご髭を生やし横幅も大きい。そんな髭面をニコニコと嬉しそうに崩して、夕侑の頭をなでてきた。 「相変わらず華奢だなあ。ちゃんと食べてるか」 「はい。食べてます」 「そうかそうか。ショーは三十分後だ。客席でゆっくり観てってくれよな」 「轟さんは、また悪の帝王役ですか」 「おう。あれは俺にしかできないからな」  と言って、がたいのいい身体を揺らす。  轟の目が夕侑の後ろに立つ獅旺に注がれたので、夕侑は彼を紹介した。 「あの、僕の学園の、先輩の、御木本さんです」 「やあ、はじめまして。夕侑君の友達の轟です」 「はじめまして。御木本です」  快活に挨拶する轟に、獅旺は大人びた礼儀正しい挨拶を返した。しかしその目はなぜか挑戦的だ。  轟は獅旺の眼差しの意味がわからず笑顔を固めた。 「……まあ、友人ができたのならよかったよ。学園生活は楽しそうだな」  轟が夕侑に微笑む。その瞳には、多大な労りがこめられている。夕侑も同じように笑みを返した。  

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