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第50話

 轟は、死んだ友人の恋人だった。  ベータとオメガというイレギュラーな組みあわせだったが、当時、中学生だったふたりはバース性にとらわれない純粋なつきあいをしていた。事件の後、苦しんで嘆いていた夕侑をはげましてくれたのも轟だった。 「おい、轟、そろそろ衣装を着ろよ」  ショーの座長らしき人に言われて、轟が返事をする。 「わかりました。すぐいきます」 「じゃあ、頑張ってくださいね。また後できます」  夕侑が手を振って、獅旺と一緒にその場を離れようとしたら、いきなり人が飛びこんできた。  カーテンをあけて、中に向かって大声で叫ぶ。 「大変だっ」  劇団員と思われる若い男が、スマホを手に大慌てで皆に告げた。 「い、今、サニーマン役から電話があって、ここにくる途中、バイクで、こけちゃったって」 「えっ」 「ええっ」  ひかえ室にいたスタッフ全員が大きな声をあげる。 「足を骨折しちまって、今は病院で、会場までくるのは無理だって言っている」 「何だって」  ショーの主役をつとめる俳優の、突然の事故に場が騒然となった。 「まじかよ」 「お、おい、どうする? 彼の代役なんていないぞ」 「轟、お前が出るか」 「こんなデブのサニーマンなんていませんよ。てか、俺が出たら悪役はどうするんですか」 「誰かその辺に、サニーマンができそうなコアなファンはいないのか。時間がないぞっ」  右往左往するスタッフのひとりが、ふと、そこにいた獅旺に目をとめる。  ひとりが彼を見れば、自然と視線が集まる。  獅旺は、自分に集中する眼差しに、けげんそうに眉をよせた。

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