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第51話 惹かれていく心

 サニーマンショーは、午前と午後に合計四回、上演予定だった。合間には、写真撮影と握手会。  主役不在で、ショーは失敗するかもしれないとスタッフらは狼狽えたのだが、予想に反して出し物はすべて大盛況となった。そして、急遽立てられた代役のサニーマンは、子供たちに大人気となった。  それを夕侑は、始終呆気に取られて眺めていた。  まるでサニーマンそのものが現れたかのような雄姿を見せていたのは、まったく予想していなかったことに、獅旺であった。 『あの、君。よかったら、舞台に、その、立っててくれるだけでいいから後は僕らが動くから、出てくれないかな』  あの後、大慌ての座長に懇願されて、獅旺は『わかりました』と即決した。  驚くべきことに、彼は短時間でショーの流れを把握し、戦闘シーンの動きを学び、そうしてショーは無事に開催されたのだった。 「ありがとう。本当に、ありがとう」  すべてが終了して楽屋に戻ると、座長は涙を流さんばかりに喜んで獅旺に礼を言った。轟や他のスタッフも、彼を取り囲み、何度も感謝の言葉をかけた。 「すごく格好よかったよ。うちのサニーマンよりずっとキマってた」 「無事に終えられたのも君のおかげだよ」 「いえ。お役に立ててよかったです」  獅旺がいつも通りの余裕の微笑みでそれに応える。  座長が差し出した謝礼の袋を丁寧に辞退して、皆に挨拶をして、獅旺は夕侑と共にひかえ室を後にした。轟や劇団員に見送られながら、ショーの会場を離れる。  空はもう夕暮れで、ふたりは公園になっている一画のベンチに座り、轟からもらったペットボトルのジュースをあけながら一息ついた。

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