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第52話

「……」 獅旺の顔に疲れはなく、けれど少しぼんやりとしている。まだ夢の中から戻れていないといった様子だ。 「今日は、ありがとうございました」  夕侑はその横顔に、心からの礼を言った。 「……いや」  獅旺は、帰り支度を始めている客らを眺めながら、ぽつりと呟いた。 「俺こそ、お前に礼を言わないと」 そしてジュースに口をつける。  ずっとマスクをかぶっていたせいで、獅旺の髪は寝癖がついたように乱れていた。いつもはきれいに整えられている栗色の髪が自由にはねているのは、今日一日、人のためにつくした証しのようで、夕侑はその姿に見とれた。  獅旺は恰好よかった。ものすごく。 「あんなに短い時間で、サニーマンの動きを習得するなんて、さすがですね」  感動しながら言うと、獅旺は「いや」と答えた。 「サニーマンの動きは全部、覚えてるから」 「そうなのですか」  好きだとは聞いていたが、ファンをこえてマニアの領域になっているのか。  夕侑が憧れの眼差しで見つめると、獅旺はこちらをチラと見て、髪をかきあげた。 「お前も、子供のころからサニーマンが好きだったんだろう」  照れ隠しのように、話題を夕侑に移してくる。 「はい。すごく好きでした」  夕侑は手にしていたペットボトルに視線を落として話した。 「施設では、テレビは食堂に一台しかなかったから、放送時間は皆でテレビの前に座って観てました。年上の子が、他の番組を観たいとチャンネルを変えてしまうと、小さい子はみんな泣いてしまって大変でした」

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