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第53話
当時のことを思い出しながら、微笑みつつ話す。
「一台しかなかった?」
獅旺が驚いた。
「はい」
「録画は?」
「古いテレビだったので、録画機能が壊れてて……。養護施設はどこもお金がないから仕方ないのですが」
「そうなのか」
夕侑の説明に、獅旺は何とも言えない複雑な表情になった。
「俺の家には、テレビやディスプレイは十何台とあったがな」
「すごいですね。うらやましいです」
単純にうらやむ気持ちだけで答えたのだが、獅旺の顔には苦い笑みが浮かんだ。
「けれど、何台あろうが、親も家庭教師も子供向けアニメなど一度も観せてはくれなかったが」
「え……」
獅旺が視線を前に戻して、客の少なくなったメリーゴーランドを遠目に見る。
そうして何かを思い出すようにしながら、静かに話し始めた。
「俺は、生まれたときから御木本グループのひとり息子として、専制君主みたいな厳しい親のもと、一日中大人数の家庭教師に、帝王学から礼儀作法、一般教養までうんざりするほど学ばされてきた。自由な時間は寝るときぐらいで、後はすべて管理されていたんだ」
自分の幼少期をうち明け始めた獅旺に、夕侑も目をみはる。
「そんな生活をずっと続けていたとき、自宅敷地内にある庭師の家に、用事があっていったんだ。あれはたしか小学三年だったな。庭師の家の居間ではちょうどテレビがついていて、そこで初めてサニーマンを見たんだ」
獅旺は口の端をほんの少し持ちあげて笑った。
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