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第54話
「それまでテレビアニメや漫画なんか、見たこともなかったから、ものすごく衝撃的だった。何て言うか、自分の中に整然と並んでいたものが、一気にバーンと壊されたような感覚だった」
まるで子供に戻ったかのような感情表現をする。
「サニーマンの活躍と、勧善懲悪のストーリーに引きこまれて、あっという間に夢中になった。それから、サニーマンは俺の大好きなヒーローになった。毎週庭師に頼んで録画してもらい、夜中に彼の家に忍んでいっては観せてもらってた。あの時間だけは、俺にとって天国だったな」
昔を懐かしむように言う。
「ストラップは、庭師がこっそりくれたものなんだ。だから俺にとっては宝物なんだよ」
そうして獅旺は、少年のように笑った。
――ああ、この人は、こんな笑い方をするんだ。
夕侑はその屈託のない笑みに、胸をときめかせた。
この人の、何の含みもない、ただ嬉しいだけの笑顔は、こんなに素直であけっ広げなんだ。
傾き始めた太陽が、色を濃くした光をふたりに投げかけている。獅旺の髪が黄金色を帯びて輝き、金茶の瞳は琥珀のように虹彩の奥まで透過度をあげていた。
「大谷」
不意に名前を呼ばれて、夕侑は「はい」と返事をした。
「今度、長野にある俺の別荘にこいよ」
「え」
「そこは祖父から俺がゆずり受けた建物なんだが、地下にすごいものが作ってあるんだ」
「すごいもの?」
夕侑が目を瞬かせると、獅旺がニヤッと笑った。
「俺の将来の夢は、日本で初めての、本物の実在するヒーローになることだ。知ってるか? サニーマンは、変身前は金持ちの若社長なんだ。彼は昼間は社会人として働き、危機が起こると変身して問題解決に向かうんだ。俺も、いつか同じようになってやる」
「……」
呆気に取られた夕侑に、獅旺は誇らしげに言った。
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