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第61話 帰路

 肩をトントンと優しく叩かれて、眠りから目覚める。  うっすらと瞼を持ちあげると、目の前には白い天井が広がっていた。  視界のはしに、見知らぬ看護師の姿がある。 「もう大丈夫ですよ。シェルターを出ましょうか」  言われて、周囲を見わたす。どうやらここは、どこかの病院のオメガ専用シェルターのようだ。  発情したオメガを隔離したり、治療したりするための特別室は、たいていの病院やビルに設置されている。自分はそこに収容されたらしかった。病着を着せられ、首や手に大判の絆創膏がいくつも貼られている。 「……はい」  夕侑は腕につけられていた点滴を外してもらい、ベッドから起きあがった。身体はだるかったが、嵐のような性欲はきれいに消えている。血圧や心拍数を測った後、看護師につきそわれて部屋を出た。すると、廊下の先から話し声が聞こえてくる。 「どうしてすぐに救急車を呼ばなかったんだ。こんな騒ぎになって、学園側も対処に追われている。理事長もお怒りだよ」  叱っているのは、神永のようだった。 「すみません」  獅旺が神妙な面持ちで謝っている。 「何のための毎月の耐久訓練だったんだ。君は今までそつなく訓練をこなしてきただろう。それがどうして今回にかぎって」  夕侑がふたりの元へ歩いていくと、獅旺が顔をあげてきた。 「大谷」  こちらにこようとして、思いとどまる。  夕侑に貼られた絆創膏を離れた場所から見て苦渋の表情になった。 「大丈夫か」  夕侑は大きくうなずいた。

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