61 / 112
第61話 帰路
肩をトントンと優しく叩かれて、眠りから目覚める。
うっすらと瞼を持ちあげると、目の前には白い天井が広がっていた。
視界のはしに、見知らぬ看護師の姿がある。
「もう大丈夫ですよ。シェルターを出ましょうか」
言われて、周囲を見わたす。どうやらここは、どこかの病院のオメガ専用シェルターのようだ。
発情したオメガを隔離したり、治療したりするための特別室は、たいていの病院やビルに設置されている。自分はそこに収容されたらしかった。病着を着せられ、首や手に大判の絆創膏がいくつも貼られている。
「……はい」
夕侑は腕につけられていた点滴を外してもらい、ベッドから起きあがった。身体はだるかったが、嵐のような性欲はきれいに消えている。血圧や心拍数を測った後、看護師につきそわれて部屋を出た。すると、廊下の先から話し声が聞こえてくる。
「どうしてすぐに救急車を呼ばなかったんだ。こんな騒ぎになって、学園側も対処に追われている。理事長もお怒りだよ」
叱っているのは、神永のようだった。
「すみません」
獅旺が神妙な面持ちで謝っている。
「何のための毎月の耐久訓練だったんだ。君は今までそつなく訓練をこなしてきただろう。それがどうして今回にかぎって」
夕侑がふたりの元へ歩いていくと、獅旺が顔をあげてきた。
「大谷」
こちらにこようとして、思いとどまる。
夕侑に貼られた絆創膏を離れた場所から見て苦渋の表情になった。
「大丈夫か」
夕侑は大きくうなずいた。
ともだちにシェアしよう!