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第63話
学園に着くと、まだぐったりとしていた夕侑は自室に入りすぐベッドに横になった。
「強い抑制剤を投与したからね。数日間は身体が重いだろう。授業は様子を見て出席しなさい」
神永がそう言って、上がけをかけてくれる。
「わかりました。先生にもお世話をかけてしまい、申し訳ありません」
「いいんだよ。僕はこれが仕事だから。ゆっくり休みなさい」
「はい」
神永が電灯を消して部屋を出ていく。
薄暗い部屋で、夕侑はぼんやりとした頭のまま、カーテンの隙間から窓の外を眺めた。
そうして、今日の最悪な出来事を振り返る。
遊園地で発情したとき、獅旺に頼んですぐに医療機関に連絡すべきだった。遊園地にも、シェルターはあったかもしれない。そこに一時避難するという手もあった。
なのに、そうではなく、獅旺も自分もまるで本能でそれをさけるようにして、結局ラブホテルへといってしまった。
多分ふたりともが、医療機関へいってしまったらセックスできないという考えが無意識にあったからだろう。
「……」
夕侑はため息をついて、寝返りをうった。
理性も常識も、何もかもを吹き飛ばして惹かれあう。どうしてこんな機能が、人に備わってしまったのだろうか。
究極の種の保存機能。それはかつて致死性ウイルスに犯され、人類が絶滅の危機に瀕したため遺伝子が生き残りをかけて変異したと、どこかで聞いたことがある。
しかし理由が何であれ、バース性は自分にとっては不幸を呼ぶ邪悪でしかない機能だ。
これさえなくなれば。
自分はもっと、普通に、人間らしく生きていけるだろうに。
そして、獅旺を困らせることもないだろうに。
――夕侑。
発情で浮かされていたとき、彼はそう呼んだ。
思い返すと、胸の奥が切なく疼く。
この気持ちは発情の影響なのか。もっと別のものなのか。
わからないままに、きつく目をとじた。
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