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第64話 学園の森
翌日は薬の影響で、身体が重く頭もぼんやりしていたので授業は欠席した。
眠気がいつまでたっても去らなくて、仕方なくベッドで教科書を読んで、疲れたら眠るということを繰り返す。うつらうつらしながらすごしていたら、夢の中で誰かがひたいをなでるのを感じた。ふと目を覚ませば、そこには誰もいない。
夕侑はベッドから身を起こした。
甘い匂いがする。フェロモンとはまた違う、自然の香りが。勉強机を見ると、大きな花束とリボンのかかった白い箱が数個おいてあった。
ベッドからおりて机までいき、白い箱をあけてみる。中には高級な果物や、ゼリーやプリンが入っていた。
誰がこれをと思い、箱の横に小さなストラップがちょこんとおかれているのに気がつく。
「……あ」
それは、獅旺が持っているはずのサニーマンだった。ということは、この見舞いの品は彼が持ってきてくれたのだ。
夕侑はストラップを握りしめた。
どうして、これをおいていったのだろうか。あの人にとって大切な宝物のはずなのに。もしかして荷物をおくときに落としていったのか。
人形を頬に押しあてると、ほのかに彼の匂いがする。
「……獅旺さん」
多分、ここに忘れていったわけではないのだ。夕侑にこれを託していったのだ。まるで自分の心をおいていくようにして。
遊園地ですごしたふたりだけの時間が心によみがえる。
語った夢や、お互いの笑顔が。
胸の奥から、彼のことを愛おしいと思う気持ちが生まれてくる。それは発情とはまったく別のものだ。
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