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第65話
心だけが、彼に反応している。そばにいたいと、話をしたり笑いあったり、幸せな時間をすごしたいと、望んでいる。
「どうしよう」
どうしたらいいんだろう。この気持ちは、未来のないものなのに。
夕侑は気づき始めた恋心に、戸惑うしかなかった。
その次の日、授業に出席した後、校舎を出て寮に戻ろうとしたら、後ろから声をかけられた。
「大谷」
呼ばれて振り返ると、獅旺が急ぎ足で近づいてきていた。
「獅旺さん」
制服姿の彼が、三メートルほど手前で足をとめる。離れた場所から、夕侑の健康状態をうかがうように全身を眺めてきた。
「もう大丈夫になったのか」
「はい、あの、お見舞い、ありがとうございます」
今夜にでも獅旺の部屋にお礼を言いにいこうと考えていたので、ここで会えてよかった。
「そうか。ならよかった」
獅旺はうなずくと、「じゃあ」といって去ろうとする。
「あの」
夕侑は思わず呼びとめていた。
「あ、あの、ストラップは、……僕が持ってていいんですか」
獅旺が振り返る。
「俺がそばによれないからだ」
「え……」
「だからそれだけでも、持ってて欲しい」
獅旺の言葉に、やるせないものが胸にこみあげた。
「大丈夫そうなんです」
「え?」
大きな声をあげた夕侑に、いぶかしげな眼差しを向けてくる。
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