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第66話

「あの、……もう、……怖く、なくなったんで」  尻すぼみになっていく声に力をこめて、相手に伝えた。 「……もう、怖くは、ない、……みたいなんです……」  最後は消えそうになった呟きに、獅旺が目を見ひらく。 「本当か?」 「……はい。あの、どうしてか、獅旺さんは……大丈夫に、なったんです」  過去の事件でバーストした獅子族の男は、やはり思い返せば怖かったが、獅旺とその男は別人なのだと頭がようやく理解してきたのだった。  獅旺はそっと近づいてくると、夕侑の前に立った。 「なら、散歩にいくか?」 「はい?」  唐突に誘われて、思わず問い返す。 「今からちょうど、森へ駆けにいこうかと思っていたんだ。大丈夫そうなら、一緒にいってみるか?」 「……一緒に駆けるって、……あの、僕は獣化できませんが」 「俺の背にまたがっていけばいい」  言うと、獅旺は夕侑の気が変わらないうちに実行しようと思ったのか、その場で制服を脱ぎ始めた。 「え? あ、ええ?」  いつものことだが、行動が早すぎてついていけない。  思い立ったらすぐに実行しようとする合理的な性格は、将来は経営者を目指す育てられ方からきているのか、決断が普通の人より素早くて毎回面喰らう。 「服は丸めて、持ってってくれ」  獅旺が素裸になると、通りがかった生徒らが「おいおい。ここでか」と呆れたように声をかけていく。  彼はそれにかるく笑い返した。獣人ばかりの学園では、変身のために服を脱ぐことにさほど抵抗がない。逞しい身体をブルリと震わせて、獅旺は獅子に変化した。

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