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第67話

 大柄な獣が首を振って、『乗れ』と合図する。獣化するとヒトの言葉はしゃべれない。夕侑は服を手早くたたんで抱えると、獅旺にまたがった。  獅子の首に手を回すようにしてしがみつけば、獅旺はゆっくりと歩み出した。  夕侑を振り落とさないように注意しながら慎重に進んでいく。そうして大丈夫と判断してから、次第にスピードをあげていった。  段々と早くなっていく走りに、自分も腕に力をこめる。怖さは感じなくて、風を切る心地よさに夕侑はいつの間にか笑みさえ浮かべていた。  校舎の裏に広がる森は、獣化した生徒たちが運動するために作られた園庭だ。雑木林や小川、なだらかな丘にひらけた空き地もある。  ヒト族の夕侑は、森の中にほとんど入ったことがなかったから、物珍しくてあたりを見わたした。  獅旺は木々を抜けて、森の奥まで進んでいった。うっそうと茂る欅や檜の大木の間を走り、やがて陽のさす一画へとたどりつく。  周囲には背の高い木が多く、足元には草が茂っていた。遠くで鳥が鳴き、風がふけば葉ずれのさざめきが波のように満ちてくる。  獅子は大きな一本の欅のそばで立ちどまると、そこで夕侑を背からおろした。 「……こんな所があったんだ」  鼻先を木の根元に向けて、座るようにとうながす。示された草むらに腰をおろせば、獅子はその横に大きな胴体を横たえた。 栗色の毛が、太陽の光を浴びてキラキラしている。立派なたてがみは炎の雫がたれているかのようだ。  その魅力に誘われるようにして、そっと獣毛に手をあててみた。獅子の毛は、一本一本は硬いが全体的にはなめらかで触り心地はいい。  艶やかな毛並みに見とれていたら、尻尾の先で首をくすぐられた。

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