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第70話
夕侑を抱えて部屋を出る獅旺、彼の家の立派な車に乗りこむふたり。SNSにのせられたそれらには『ラブホで異臭騒ぎ』『発情オメガ迷惑千万』『これがサカりすぎバカップル』『フェスの帰りに遭遇しましたよ』と書きこまれている。夕侑と獅旺の顔がはっきり写ったものもある。
あのとき、周囲ではこんな騒動になっていたのだ。
スマホを持つ手が震える。
先刻、獅旺は森にいったとき、夕侑に何も言わなかった。きっと彼だって知っていただろう。なのに黙っていたのは、多分、夕侑に心配をかけまいとしたのだ。
「……どうしよう」
「君は、先生に呼び出されていない?」
「いいえ、まだ何も」
「じゃあ、回復を待ってからかな。それとも御木本家のほうが大変すぎて、君のことは後回しになっているのかも」
「大変すぎるって、どういうことですか」
問いかける声がわななく。白原は浮かない顔になった。
「獅旺のほうは、本人特定がされてしまったんだ。ネットでは、御曹司の醜態として誹謗中傷が色々な場所に書きこまれている。御木本グループはたくさんの企業を抱えているからね。そっちにも飛び火して、鎮火に大わらわらしいよ」
「そんな……そんな」
自分のせいで、獅旺が大変なことになっている。ことが重大すぎて、夕侑はパニックになった。
「獅旺さんは……今、どこに」
真っ青になった夕侑に、白原がなだめるように言った。
「放課後、理事長らに呼び出されていた。今は両親がきてて、面会室にいるはずだ」
謝りたいと思ったけれど、そんなものですまされるはずはないだろう。
「大丈夫かい? 顔色がよくないよ」
混乱して、ただ震えるだけの夕侑の肩に、白原が優しく手をそえてきた。
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