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第71話
「部屋に戻って休んだほうがいい。送っていくから」
夕侑は何も考えられなくなっていた。ネットに自分の写真が投稿されて騒動になるなど経験がないので、どうしていいのか全然わからない。
「心配しなくてもきっと大丈夫だから。あまり気に病まないで」
困惑する夕侑を白原が支えて、一緒に自室に戻った。
途中、長い廊下を歩いていると、正面玄関脇の面会室の扉が大きな音を立ててひらかれる。中から三人の人物が出てきたので、夕侑と白原はとっさに柱の陰にかくれた。
「こんな騒ぎを起こすなど、前代未聞だ。御木本家には、お前のような愚かな獅子はひとりもいないぞ」
声高に怒っているのは、背広を着た壮年の紳士だった。背が高く厳めしい顔つきで、いかにもアルファといった尊大さに満ちている。
その横には、和服姿の凜とした中年女性が立っていた。ふたりは獅旺の両親だろう。彼らのそばには本人がいた。
「お前はすぐにこの学園をやめて、他の学校に移れ。オメガ奨学生制度は廃止するように理事長に言う」
「父さん」
獅旺が抗議する。
「今回の出来事は、奨学生制度とは関係ありません。それに私はこの学園をやめるつもりはないです」
「親に逆らうのか」
父親がギロリと息子を睨んだ。
「父さんの言う通りにしたら、それこそ世間の笑いものになります。私は逃げ出すつもりはありません」
「恥の上塗りをするつもりか、馬鹿者め」
「オメガを助けたことは、私にとっては恥ではありません」
「何を言う。オメガは邪悪な生き物だ。奴らのフェロモンは我々の脳をも狂わす。運命の番などとほざいてアルファを操り利用する、よこしまな淫魔だろうが」
獅旺の父親の言いざまに、夕侑は全身の血が冷えていった。
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