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第75話

「嘘をつくな。そんなはずあるか。お前が俺を欲しくないわけがない。なぜなら、俺たちは運命の――」  「婚約者がいますよね」  考えもなく口から出たのは、その言葉だった。  言うつもりなんてなかったのに。  婚約者のことをたずねてしまえば、ただそれだけが彼を拒否する理由になってしまう気がして、そんな女々しいことをするつもりはなかった。なのに。  夕侑の言葉に、獅旺は目を見ひらいた。そして、怒りをおさえると平坦な声で言った。 「あれは親が勝手に決めたものだ。お前と出会う前は、それでもいいと思っていた。けれど、今は違うんだ」 「僕は、誰とも、番うつもりはないです。僕にはもう、決めている未来があるので」 「決めている未来?」  獅旺がけげんな顔をする。 「そうです。将来は、自立してオメガのために働くんです。そのために大学にもいきたい。だからこの学園で、我慢して奨学生をしながら勉強しているんです」 「働くって、何の仕事をするんだ」 「オメガを助けるNPOやNGOです。色々な知識を身につけて、世界中の苦しんでいるオメガのために尽くしたいんです」  獅旺は夕侑の説明にうなずいた。 「だったら、俺がその夢を援助する。資金を出して、お前のためにそういう団体を設立してもいい」 「え……」 「大学だって、このままじゃ通えないだろう? 修学したいのなら、奨学生よりもっといい方法がある。安定した健康状態で学べる環境を、俺なら与えてやれる」  獅旺は、夕侑の目をじっと見つめてきた。

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