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第76話
力強い瞳に、追いつめられる獲物の気持ちになる。獅旺は夕侑に『自分の番になれ』と言っているのだ。それに気づいて背筋に震えが走った。
昂ぶる感情は、拒否か、それとも喜びなのか。判断がつかない。夕侑はとっさに首を振った。
「……いいえ。番に、なるだけが、解決方法じゃありません」
夕侑の返事に、獅旺が目をすがめる。
「もうひとつの方法があります。僕は、それをとるつもりです」
獅旺は首をかしげ、思案する様子を見せた。
すると、急に表情を険しくして問いただしてくる。
「それはあの、轟という男と関係があるのか」
「えっ」
いきなり見当違いの名前が出て驚く。
「あの男と、一緒になるつもりなのか。だから俺とは番になれないのか」
夕侑は慌てて首を振った。
「ち、違います。あの人は関係ありません」
大げさなくらい強く否定すると、獅旺は納得したようだった。けれど怒りの表情はおさまらない。
「他の男と番になろうとするのだったら、俺はお前を誘拐して、監禁するかもしれない。……他の奴になんか絶対にわたしたくない」
獅旺がもらした本心に、夕侑はビックリした。そんな執着じみた考えを、この人が持っていたとは。
「あの男が関係ないのだとしたら、もうひとつの方法とは何なんだ」
腕を強く掴み、突きつめてくる相手に胸の奥がジリジリとあぶられるように痛む。夕侑はひるみそうになりながらも、どうにか口をひらいた。
「手術を、受けるんです」
「手術?」
思いがけない言葉を聞いた獅旺が、眉をよせる。
夕侑はひとつ大きくうなずいた。
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