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第77話

「そうです。オメガを、やめる手術があるんです」 「そんなもの、聞いたことがないぞ」 「まだ世界的にも珍しい手術で、日本でも執刀できる医師はひとりしかいません。その医師が、神永先生と知りあいの方で、先生にはずっと相談してきたんです」  獅旺が神永に目を移すと、神永が言葉を継いだ。 「オメガがオメガであるのは、フェロモンを分泌する首元の嚢と、妊娠可能な臓器によるんだ。それらをすべて手術で取り除く。難しい手術で生命の危険もあるが、どうしてもオメガで生きていくのが嫌だという人のために、そういった研究が進められている」 「……そんな」  獅旺が呆然とする。 「大谷君は卒業までは、ここで奨学生として勉強して、卒業後、手術を受ける予定でいる。費用についても向こうの医師とは話がついている」 「どうしてそんなものを」 「僕は、早く解放されたいんです。この、地獄のような苦しみから」  生まれたときから囚われてきた欲望の檻。そこから自由になって生きていきたい。 「だったら、番う相手を見つければいいだけだろう。そうすれば、フェロモンをまき散らすこともなくなる。番になれば、フェロモンは番にしか作用しなくなるんだから」  夕侑は首を振った。 「番は、持ちません」 「どうして」  獅旺が苛立ったように声を荒らげる。夕侑は唇を震わせて、掠れた声を出した。 「友人を助けられなかったから」  ――やめて、やめてお願い、と叫びながら、――して、もっと、と懇願しながら噛み殺された友人。おびえていた自分。  彼のことを思うと、生き残った自分が情けなくて腹立たしくて、どうしても許すことができない。

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