77 / 112
第77話
「そうです。オメガを、やめる手術があるんです」
「そんなもの、聞いたことがないぞ」
「まだ世界的にも珍しい手術で、日本でも執刀できる医師はひとりしかいません。その医師が、神永先生と知りあいの方で、先生にはずっと相談してきたんです」
獅旺が神永に目を移すと、神永が言葉を継いだ。
「オメガがオメガであるのは、フェロモンを分泌する首元の嚢と、妊娠可能な臓器によるんだ。それらをすべて手術で取り除く。難しい手術で生命の危険もあるが、どうしてもオメガで生きていくのが嫌だという人のために、そういった研究が進められている」
「……そんな」
獅旺が呆然とする。
「大谷君は卒業までは、ここで奨学生として勉強して、卒業後、手術を受ける予定でいる。費用についても向こうの医師とは話がついている」
「どうしてそんなものを」
「僕は、早く解放されたいんです。この、地獄のような苦しみから」
生まれたときから囚われてきた欲望の檻。そこから自由になって生きていきたい。
「だったら、番う相手を見つければいいだけだろう。そうすれば、フェロモンをまき散らすこともなくなる。番になれば、フェロモンは番にしか作用しなくなるんだから」
夕侑は首を振った。
「番は、持ちません」
「どうして」
獅旺が苛立ったように声を荒らげる。夕侑は唇を震わせて、掠れた声を出した。
「友人を助けられなかったから」
――やめて、やめてお願い、と叫びながら、――して、もっと、と懇願しながら噛み殺された友人。おびえていた自分。
彼のことを思うと、生き残った自分が情けなくて腹立たしくて、どうしても許すことができない。
ともだちにシェアしよう!