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第78話
俯いた夕侑に、神永が言った。
「大谷君。何度も言うようだけれど、それは君のせいじゃないよ。あまり自分を責めるものじゃない」
優しい言葉は、今までたくさんの人から繰り返し聞かされたものだ。けれど、夕侑の心は変わらない。
獅旺は夕侑の腕を掴んだまま、その場にしゃがみこんだ。真摯な瞳で、下から夕侑をじっと見あげてくる。夕侑の苦しみの根源にあるものを、すくい出そうとするかのように。
眼差しにもう怒りはなかった。けれど険しさだけは残っている。
そうして、静かにたずねてきた。
「お前は、もしかして、その友人のことが、好きだったのか?」
ハッとして、目を見ひらく。
心の奥にいきなり深くナイフを差しこまれたような衝撃に、夕侑は呆然となった。
「……好きだったんだな」
おだやかに、けれど断言するように呟かれる。その瞬間、目に涙があふれた。
こらえることができず、熱い雫はボロボロと流れて頬を伝い、あごからいくつも落ちていった。
隠してきた心が明らかにされて、自分を支えてきた芯がもろく崩れていく。
「……そうです」
わななく唇が、勝手に告白していた。
「そうです。僕は、……生まれたときから、男性しか、好きになれなかった。それで、初めて好きになったのが、彼でした」
――夕侑、夕侑。
と、自分を呼ぶ、かつての友人の声が耳の奥によみがえる。
同じ施設で、幼いころから一緒に暮らしてきた。オメガ同士で同じ男で、なのにいつの間にか好きになっていた。発情もまだだったから、本当に純粋な恋心でしかなかった。
彼には轟という恋人ができて夕侑は失恋してしまったけれど、彼の幸せは誰よりも強く願っていた。
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