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第85話

 鋼を打つ音に続いて、外の光が倉庫に入りこんできた。シャッターが壊されたらしく隙間からバキバキという音を立てて、影がひとつ侵入してくる。 「……ぁ」  それは、一匹の大きな獅子だった。 「……し、ぉ……」  獅子は夕侑に気がつくと、大地を裂くような咆哮をあげた。  そしていきなり風のように駆けてきて、ユキヒョウの首にガブリと噛みつく。  突然の攻撃に白原が叫んだ。 「ギャァオオゥゥゥッ」 「グウウウオオオッ」  二匹は絡まりあいながら床を転がり、激しい唸り声をあげて闘い始めた。 「グオオオゥゥッ」 「アオゥグオウウウッ……ッ」  互いの身体に牙を立て、前足で蹴り、地響きのような威嚇を繰り返す。  夕侑は怖れと驚きに目を見ひらいた。  獰猛な獣同士の闘争は、一方がもう片方をねじ伏せるまでとまらなかった。 「グァァ……オゥッ……ウウグウゥゥゥ……ッ…………」  やがてユキヒョウのほうが力つきたのか、戦意を喪失して床にぐったりと横たわった。  大柄な猫が弱々しい鳴き声をもらして負けを認める。それでようやく、獅子はユキヒョウから離れると、こちらを振り返った。  その顔は興奮に牙をむき、目はつりあがり、たてがみは炎のように揺れていた。  夕侑の発するフェロモンと血の匂いに、獅子もまた欲望を目覚めさせられたのか腹を上下させる。  しかし、獅旺は夕侑の元にはこなかった。  ゆっくりと数歩さがったかと思ったら、踵を返し、入ってきた場所から倉庫の外へと出ていく。 「…………」  夕侑は痛みに喘ぎながら、消えていく獅子の後ろ姿を見送った。

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