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第88話 轟の訪問

 後日、学生寮の部屋に残してきた私物が、保養施設に届けられた。  その中にはサニーマンのストラップもあった。古びた小さな人形のおもちゃ。夕侑はそれを毎日、握りしめて暮らした。  獅旺のことを考えながら。  離れていても、運命の番は惹かれあうのだろうか。それとも、このまま忘れ去ることは可能なのだろうか。互いのフェロモンも届かない距離で、想いは生き続けることができるのか。これからも獅旺は訓練のたびに、夕侑の匂いをかぐことになる。そのとき、あの人は何を感じてバーストをおさえるんだろう。夕侑のことを、まだ欲しいと願うのだろうか。  それを想像しただけで、ストラップを握る指が震えた。  自分の選んだ道が正しいのか間違っていたのか、考えれば考えるほど、わからなくなってきている。  静かな自然に囲まれて、日々おだやかに暮らしながらも心は千々に乱れて、夜ごと悩みながらベッドで寝返りを打つ。  そんな日常が続く中で、ある日、夕侑の元を轟が訪ねてきた。 「やあ、久しぶり」  大柄な熊のような容貌の、犬族ベータの彼はニコニコと笑顔で屋敷にやってきた。 「轟さん。遠い所をわざわざありがとうございます」  玄関先で出迎えると、いつものように頭をわしわしとなでられる。 「元気そうでよかった。メッセージでしか連絡取れなかったから心配したよ」 「すみません、病院からそのままこちらに引っ越したもので」 「いいよ、いいよ。顔が見られてよかった」  陽のあたる面会室に移動して、応接セットに座り話をする。遊園地のショーで会ってから、四ヶ月がすぎていた。

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