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第89話

「ここはいいところだね」 「はい。おかげでゆっくりと療養できて助かっています」 「それはよかった」 「轟さんは、今はお仕事は?」 「僕は相変わらず演劇一本さ。まあ、仕事もそれなりにもらえてるから頑張れてる」  なごやかに互いの近況報告をしたあと、出されたコーヒーを飲みほした轟が、カップをテーブルに戻し、「ところで」と話を切り出した。 「色々と迷っているようだから。一度、キチンと君とは話をしておきたかったんだよ」  改まった様子で話してくるので、夕侑も背筋をのばす。 「はい」 「以前から聞いていたように、将来はオメガ救済の仕事につくつもりだとして、相談を受けていたあの手術は、やっぱり受けるつもりなのかい?」  声は優しげだったが、わずかに納得できない気持ちが含まれているように感じられた。 「……実は、迷い始めていて」  そう答えると、轟はうんうんとうなずく。 「彼はどう言っているの? 君の運命の人は?」 「え?」  驚いて顔をあげる。轟に獅旺のことは話していなかったのに。  夕侑の反応に、轟が苦笑した。 「遊園地に一緒にきてた彼だろ? すぐにわかったよ。彼、僕にすごく牽制する目を向けてきてたから」 「……」  ショーの舞台裏で、轟に獅旺を紹介したときのことを思い出す。  獅旺の眼差しにはそんな意味があったのか。

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