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第90話
「君も彼のことが好きなんだろう。運命の相手とはそういうものらしいから。僕はベータだから、詳しくはわからないけれど」
「でも、彼とは、住む世界が違いすぎるので。結局、別れたんです」
無理に笑顔を作って伝えると、轟は信じられないという表情になった。
そしてぐいっと身を乗り出してくる。
「夕侑君、君が、オメガを捨ててひとりで生きていこうとするのは、もしかして、僕の死んだ恋人のためなのかい?」
「え?」
轟は、ひどく真面目な顔つきになって言った。
「だとしたら、それは間違っている」
「轟さん」
「きつい言い方になってしまうかもしれないが、そんなことをしても、死んでしまった彼は喜ばないよ。あの子は、君がオメガとして幸せになることを望んでいるだろうから」
「……」
「それに、もし君が、世界中のオメガのために働きたいというのなら、手術を受けることは、彼らに失望しか与えないだろう」
「な、なぜですか」
思いがけない言葉に戸惑う。
「オメガ性を捨てなければ、幸せにはなれないと、彼らに教えるようなものだからだ」
轟の言葉に、夕侑は愕然とした。
そんなことは、今まで考えもしなかったからだ。
自分がオメガを捨てることで、他のオメガに失望を与えるなどとは。
「……で、では、僕は、……どうすれば」
視線をさまよわせる夕侑に、轟はおだやかな表情に戻って言った。
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