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第91話

「君がオメガのままで幸せになれば、それはきっと彼らの希望になる。君は幸運にも、運命の番と出会えたんだから」  呆然と見返すと、大きな毛深い手で両手を包みこまれる。轟は秘密をうち明けるようにしてささやいた。 「夕侑君。君は、僕の恋人のことが好きだったんだろう」 ハッと目をみはれば、相手は、わかっている、というように人なつっこく微笑んだ。 「君が彼に想いをよせてくれていることは、僕も気づいていたよ」  隠していたことが明らかになって、目にみるみる涙がたまる。そんな夕侑の顔を見ながら轟は続けた。 「けれど、彼は僕のものだ。彼を悼むのは僕の仕事で、君は、君の想う人のことを考えて、生きていくべきなんだ」  そうして轟は、長年の心の枷を解放するかのように言った。 「幸せになるのは、決して罪ではないんだよ」  優しく告げられて、胸の中にわだかまっていたものがゆるやかにとけていく。  たくさんの悩みや苦しみが、おもりとなって夕侑の心には蓄積されていたのだけれど、それらが轟の言葉で静かに取り払われていくような心地がする。 「世界中のオメガを幸福にしたいのなら、君自身が幸せにならなくて、どうして人にそれを教えることができるのかい」 「…………」  轟の助言が、かるくなった心に沁みていく。  うつむいて涙をぬぐい、なんどもうなずくと、そんな夕侑の頭を、轟はいつまでも微笑みながら優しくなでてくれていた。

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