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第92話 移ろう四季

 ひなびた田舎に建てられた屋敷は、自然豊かな環境にあり、夕侑はそこで四季の彩りを眺めながら、自分の人生について考えつつ残りの高校生活をすごした。  訪問してくるのは神永ぐらいで、他にやってくる者はほとんどいない。けれど対人恐怖症気味になっていた夕侑には、ちょうどいい暮らしだった。  獅旺はこなかった。ただの一度も。連絡もなかった。  夕侑が二年に進級したとき、彼は卒業して大学に進んだと神永から聞いた。有名大学に優秀な成績で合格したらしい。  やはり聡明な人だったんだなと、改めて尊敬する。きっと将来も輝かしいものになるだろう。  御木本グループの跡継ぎとして、同じ獅子族アルファの人と結婚して、子供をもうけて。  そして、離れていった愚かなオメガのことは忘れて――。  自分から彼を拒否したのだ。今さらどんなに好きだったと気づいたとしても、もう手遅れだろう。自分はこのまま、彼とは別の人生を歩む。  けれど、手術を受けるかどうかは、まだ決心がついていなかった。  授業は映像で受けて、試験と課題をこなし単位を取得する。そうやって、勉強漬けで毎日をすごす。  獣人の生徒にジロジロ見られたりすることもなく、訓練の負担もなくなり、ストレスの少ない生活は以前に比べてとても恵まれたものとなった。  春は草木に芽吹く新たな緑に心いやされて、夏は太陽と風に身をまかせ、秋は人恋しげに暮れゆく茜空を眺め、冬は静かに雪にうもれて暮らす。  発情が始まれば身体は苦しかったけれど、それさえもゆとりのある生活の中では、受け入れる心の余裕ができていった。  自分は生きていて、そして未来はどうしても存在する。逃げることはできない。生を全うしようとするのなら。多くの道からただひとつを、必ず選択せねばならない。  二年、三年と、自然に囲まれた、おだやかな日常が続いていく。  ――そうして、雪どけ水の清らかな雫が、敷地内に植えられた梅の蕾からしたたるころに、夕侑もまた学園を卒業する時期を迎えたのだった。

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