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第94話

「まさか……」 「そう。ここは御木本家の所有物なんだ」 「……御木本家、って? 何で……」 「獅旺君がね、君を守るために、ここを用意したんだよ」 「……そんな」  証書を持つ手が震える。 「でも、そんなこと、あの人は、一言も……」  連絡さえなかったのに。  夕侑は言葉を失って、視線を古い屋敷にさまよわせた。ここが学園の保養施設ではなく、御木本家の別荘だったとは。 「大谷君」  戸惑う夕侑に、神永が続ける。 「手術の件は、君さえ了承するのならば、執刀医のほうは準備ができていると言ってきてる」  夕侑は神永に視線を戻した。 「けれど、よく考えて、決めたほうがいい。手術を受けてしまえばもう、元に戻ることはできないのだから。君の一生を左右する決断だ。慎重に、できれば大切な人と相談をして」  神永が夕侑に、首輪と貞操帯の鍵を手わたしてくる。 「後悔しない道を選びなさい」  大切な人。自分にとって。それは……。 「連絡はいつでも僕にしてくれていいから。待っているからね」  そう言って、神永は帰っていった。残された夕侑は、神永の車を門まで見送った後、屋敷の中を改めて見て回った。  庭に設置されたコンテナ型のシェルター、たくさんの客室に、広間や応接室。あまりに広くて立派な建物だったので、個人の別荘だとは思いもしなかった。  そして、建物の奥には、地下へと続く階段があった。その前には立ち入りを禁止するチェーンがはられている。

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