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第98話

 ――どうして、この人が、今、ここにきているのか。  そして、どうしておめでとうなんて言うのか。どうして今まで自分をここにかくまってくれていたのか。なぜ地下にあった部屋を封印してまで――。  ききたいことはたくさんあるのに、どれから口にしていいのかわからない。思いばかりがあふれてしまい舌が動かなくなる。  言葉がつまってしまった夕侑に、獅旺はわずかに困ったような顔をしてみせた。  それから瞳をそらし気味に答えてくる。 「お前に、今日、伝えたいことがあって」  伝えたいことが、と言われて、夕侑は自分もまた彼に伝えたくてたまらないことがあるのに気がついた。  今までの自分の身勝手だった態度を謝って、優しくしてくれたことに礼を言って、本当は好きだったことを告白して、それから、それから……。だけど混乱した頭は、うまく言葉を組み立ててくれない。 「地下の部屋を見たんです」  ごちゃごちゃの頭の中から、最初に出たのはなぜかその台詞だった。 「え?」  いきなり放った言葉に、獅旺が視線を戻してくる。 「サニーマンの研究室を」 「……ああ」  獅旺は一度、瞬きしてからうなずいた。 「見たのか。あれを」 「ごめんなさい、勝手に入ってしまって」 「いや。いいんだ。あれは、いつかお前に見せたいと思っていた部屋だったから」 「……僕に」  獅旺が、ふたたびうなずく。  彼の表情が、夕侑の言葉を待って真摯なものになる。それに舌の絡まりも段々とほどけていった。

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