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第99話

「どうして」  気を抜けば掠れてしまいそうな声で夕侑はたずねた。 「どうして僕を、ここですごさせてくれたんですか?」  大切なラボのある建物を、二年もの間、なぜ夕侑のために使ってくれていたのか。  その問いに、獅旺はあたり前のことを答えるかのように言った。   「お前を、どこへもいかせたくなかったから。手元に監禁するようにして、静かに勉強して欲しかったから。誰にも会わせたくなかったから」  まるで、夕侑を無理矢理ここにとじこめたような言い方をする。 「……そんな、そんなこと。……僕は、ぜんぜん……知らなくて」  獅旺の答えに声が震えてしまい、また言いたいことがうまく伝えられなくなってしまう。 「ここは、すごく、いい所でした」  ようやくそれだけ口にすると、獅旺が少し嬉しそうにした。 「そうか」  甘い笑顔を見せてくれたことで、夕侑の胸は大きく波立った。  獅旺はまだ、距離を取ったままでいる。近づくことをためらうようにして、その場から動かない。  少し緊張した顔つきには、以前のような鷹揚な雰囲気はなかった。 「今日はお前に、頼みがあってきたんだ」 「……頼み?」 「そうだ」  獅旺は気持ちをおさえるようにひとつ深呼吸をしてから、ゆっくりと話しだした。 「二年かけて、両親を説得した。俺は、お前以外の番を得るつもりはないと。それをハッキリと伝えた。婚約も解消した。ひどく手間取ったが、親も最後は了解した。御木本グループを今の倍にまで発展させることを条件に。もちろん、それくらいはやってみせる」  夕侑は目を大きくみはった。 「お前が誰を好きになろうと、どんな道を歩もうとかまわない。けれど、これだけは、俺にさせて欲しい。――大切な運命の相手を、守ることだけは俺の役目にさせてくれ」  ひたむきな言葉に、全身が震える。

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