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第102話
「夕侑」
せっぱつまった声がした。
「手術を受けないでくれ」
耳元で、訴えかけられる。
「頼む。頼むから。手術だけは、受けないでくれ」
おさえこんでいた本当の願いが、せきを切ってあふれてしまったというように懇願された。それに心がえぐられる。
この人を、自分はどれだけ悩ませ、苦しませてしまったのか。何て身勝手なことをしてきてしまったのか。
――幸せになるのは、決して罪ではないんだよ。
轟から受けた助言が思い出される。
オメガのままで幸福になること。それが他のオメガにも希望になるだろうと、彼は言ったのだ。
「……」
もう、意固地になるのはやめなければ。
心の縛りをといて、自分の気持ちに素直になって。そうして、自分にできることを探していこう。
「……はい」
真心をこめて答えると、獅旺の腕に力がこもる。
「――ああ」
獅旺が夕侑にもたれかかるように、さらに強く抱きしめてきた。
「よかった……」
安堵をふくんだため息が、耳元でもらされる。
その声に、自分もまた、本心では獅旺との幸せを望んでいたのだと、オメガである自身を否定したくはなかったのだと気づかされる。
大柄な獅子族のアルファに痛いほど拘束されて、夕侑は生まれて初めて、心の底からオメガの幸せに身を任せられたのだった。
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