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第103話 恋する気持ちだけで

 夕侑の部屋は、屋敷の一番陽あたりのよい場所にあった。  広くて落ち着いた洋室には、生活に必要な家具とシングルベッドがひとつある。  夕侑と獅旺は、そこに並んで腰かけた。  陽は落ちて、あたりは薄暗くなり始めている。夕侑はポケットから鍵を取り出した。 「神永先生から、さっきこれを受け取りました」  手のひらにふたつの鍵をのせて、獅旺にさし出す。貞操帯と首輪のものだ。  獅旺は鍵と夕侑を見比べた。 「俺が外していいんだな」  夕侑はうなずいた。 「はい、お願いします」  獅旺が鍵を手に取り、まず首輪を外す。革製ベルトのつなぎ目にあった鍵孔に鍵を差しこみ横に回した。  カチッと音がして、幼いときからずっと自分を守ってきた枷がほどかれる。いきなり首元が心許なくなって、夕侑は少し肩をすくめた。 「陽があたっていなかったんだな。ここだけ肌が白い」  獅旺がそっと首に触れてくる。 「――ぁっ」  思わずあげた声に、獅旺がすぐに手を引いた。他人になでられるのは初めてなので、つい過敏に反応してしまった。 「発情期は?」 「あ、えっと、三日前に終わりました」 「そうか。俺も抑制剤は飲んできた」  けれど、獅旺の瞳には欲望の淡い色がある。どうしてなのかとじっと見つめて、気がついた。  獅旺の情欲は、オメガのフェロモンにあてられたわけではなく、夕侑を愛おしいという想いからわいて出ているのだ。それがわかって、胸が熱くなった。

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