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第104話
獅旺が夕侑の両腕を掴んで、顔を近づけてくる。口づけられるのかと思った夕侑は目をとじた。けれど獅旺は口には触れずに、いきなり首元に唇を押しつけてきた。
「――あッ」
獣人の長めの舌で、ぞろりと舐められると全身が総毛立つ。
感じやすい皮膚を舌先でこすりながら、獅旺が熱を含んだ声でささやいた。
「下の鍵も、俺が外していいんだな」
「……ぁ、そ、それは。……んっ、じ、自分で……」
外せますから、と言おうとした所を遮られる。
「俺が外す」
耳の下から裏側まで、濡れた舌がはいあがった。
「……ゃ、ぁ」
ブルッとおののくとそのまま押し倒される。獅旺は上から夕侑を見おろしてきた。
「俺のことが好きか」
わずかに強い調子でたずねられる。
「……はい」
「なら、もう抵抗するな」
「……」
俺様な言い方だったけれど、今の彼からはまるで懇願のように聞こえてしまった。もしかして、この人は夕侑が拒否したり、離れてしまったりするのを怖れているのだろうか。
こんなにも屈強な体躯を持ち、頭脳明晰である人が、運命の相手であるオメガを何よりも失いたくないと願っているのだとしたら。
そうだとしたら、自分はこの人に、本当に心から愛されているのだ。
夕侑は自分から手をのばして、獅旺の逞しい胸に触れた。
「しません。もう、あなたを不安にさせることは」
背広の上からでもよくわかる。彼の鼓動が早まっていることが。
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