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第2章~夜明けのブランル(後)~

さびれたモーテルの一室で椅子に座ったデリスが苛立たしげに足踏みをしている。 もう一時間程同じ体勢なのだが飽きもせず身動き一つ変えていない。 「で、どうなんだよ! 」 苛立たしげにベッドに居るダツラに何度目か分からない問いかけをする。 「これで、よし」 デリスの問いかけを無視してダツラはトウキの首に丁寧に包帯を巻いていく、ようやく治療が終わったらしい。 無免許とは言え彼の腕前と知識は普通の医者と引けを取らない。 だがそれ故に傷の判断も確かなものになってしまう。 いつに無く真剣な顔をしてトウキに向き直ると先程から無視していたデリスの問いに答える。 「落ち着いて聞いてね。その・・・喉が完全に潰れてて、キミの声は・・・もう二度と出せないと思う。傷は治るだろうけど 」 「! 」 ダツラの言葉にデリスも椅子から立ち上がる。 だが当のトウキは落ち着いている。微かに本人も気付いていた様だ。 「・・・・・」 喉元に手を置くとトウキは小さく頷く。 「最初の傷の手当の仕方が無茶苦茶だったよ。おかげで傷が悪化して炎症をおこしかけてた 」 溜息混じりにダツラが付け加える。 医術を持った人間が居なかったのか生きてさえいれば偶像など後はどうでもいいのか、今となっては判断できないが教団にとってトウキの位置はその位だったのだろう。 「ごめんね、力が及ばなくって!おわびに色々と気持いいことしてあげるから・・ 」 言いながらダツラはトウキをベッドに押し倒してしまう。5分とまともな会話が持たない男である。 「つーか、コイツあの教団のガキじゃねーのかよ?連れてきて良かったのか?」 椅子をダツラに投げつけるツッコミは忘れずにデリスが言う。 「うーん、どうだろう?あの時親らしい人は見かけなかったけど 」 椅子が激突した頸椎(けいつい)を押さえながらダツラは答え、トウキの顔を覗き込む。 「ねぇ、キミはどこの子?」 (それは・・・・・) 問われてもトウキは困った顔をするしかない。 どう自分を説明をすればいいのか、説明した所で信じてもらえるか、何より彼の言葉は永遠に失われてしまったのだ。 「ああ!?自分の事も分かんねーのか? 」 デリスが(いぶか)しげに言う。 「んー。まぁ別にそこまで変な事でも無いよ。『巫女』は外から連れてこられる事も多いし、その時には過去があっちゃジャマだしね 」 そう言うとダツラはその先をデリスに耳打ちする。 「だいたい薬とか催眠術で記憶を混乱させちゃうんだ。その方が都合がいいからね。それに、この子程なら人身売買よりも直接どこかから連れ去られて来たって考える方が正しいかも 」 言うだけ言うとダツラは胡散臭いまでに紳士的な笑みをトウキに向ける。 「何か覚えてる事ってないかな? 」 トウキはしばらく考えていたが、やがて力なく首を横に振る。 (・・・・・言えないです) 自分が天使であること、終焉をもたらす存在であること。 「うーん。迷子の子猫ちゃんだね-。あ、どっちかって言うと子ウサギちゃんか」 今一つ本気で心配していないダツラがそう言って腕を組む。 だがすぐにトウキの手を掴むと満面の笑みを浮かべる。 「じゃあ、こうしよっか。しばらく僕等と一緒にいない?ほら、僕等仕事であっちこっち行くし、キミの事知っている人に会えるかもしれないよ? 」 「ふざけんなっ!!」 先ほどからの悠長な会話にイライラしていたデリスは、この魂胆見え見えの提案に怒髪天を突いて怒鳴る。 「何で見ず知らずのガキの面倒を見なきゃいけねーんだ! 」 ダツラの胸倉を掴んで噛み付くが、逆にダツラに白い目で見られてしまう。 「ふーん。君がそういう事言うんだ。怪我させた張本人が、こんな荒れ果てた場所に置き去りに・・・・悲鳴も上げられないのに 」 淡々とダツラはデリスを巻くし立てる。 「ぐっ・・・・・ 」 こうなるとデリスは言葉に詰まってしまう、根が悪人でない事をダツラは知っているのだ。 デリスはトウキのほうを向と、うつむいているのが見えた。 (ごめんなさい・・・・) 天使である自分の所為で、彼が苦を背負うことなどあってはならないのに。 「だから・・・・オレが言いたいのは・・・・・! 」 「おとなしく陵辱されろって・・・ 」 何とか言葉を繋ごうとするデリスにダツラが止めを刺す。 もはや簡単に手玉に取られてしまっている。 「だーーーっ!!もう勝手にしろーー! 」 絶叫に近いデリスの突っ込みが夜明けのしじまに響き渡った。

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