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第6章~真実纏う者のパッサメッツォ(前)~

ジギタリス、クジン、ケイガイ・・・・・・賞金稼ぎの中でもその強さと凶悪さは頂点に位置している。 トウキ達は見渡す限りの荒野に立っていた。 『ケイラーの荒野』この場所の何処かに居るジギタリス達を探し出し倒すことが目的なのだ。期間は日暮れから夜明けまで。 「個人的には反対なんだけどなー 」 依頼を承諾してからダツラは終始不満を洩らしている。 「だいたい、割に合わないんだよねー 」 莫大な報酬はそれだけ危険な内容を意味している、だが刹那に命を賭けている賞金稼ぎ達は安全策を取るつもりはさらさらないのだ。 ―1人勝ち狙い― つまり敵はジギタリス達だけではない。この場に集まる全員が、お互いの命を狙っているのだ。 「うっせーよ。さっきから・・・それとな・・・ 」 先に歩いていたデリスが振り返ると今まで溜めていた怒りをぶつける。 「そこかしこで欲情するんじゃねーって言ってるだろ!! 」 見ればダツラはトウキを後ろから抱き込む形で立っている。あまりにも自然体過ぎてトウキも気になっていなかったのだ。 「お前もなれるなっ! 」 (きゅっ) 怒りの収まらないデリスがトウキに手刀を浴びせる。 「だって、こうでもしておかないと。トウキ君可愛いから誘拐されちゃうし」 わざとらしくため息をついて、ダツラは周りにいる無骨な男達を一(べつ)する。 殺気立った男達の中で、のんきな会話をしている3人は注目を浴びている。 「それに・・・・どうも胡散臭いし・・・・ね 」 そう言ってダツラは笑い顔のまま目を細める。 この途方もなく危険な依頼をしてきたのは他でもないジギタリス達3人なのだ。つまりこれは自分等を倒せるものなら倒してみろと言う挑戦状なのだ。 『命を賭けた死の遊戯』  常人なら考えもつかない事だが、道の頂点に位置する人間にとっては小手先だけで片付けられる仕事など面白味が無いのだろう。 「お前はそいつと一緒にいろ。ついて来られると足手まといだ 」 苦々しくそう言うとダツラの腕から逃れたトウキを言葉で制する。  「・・・・・なんだよ? 」 睨み付けるデリスをダツラが含んだような笑みを浮かべて見る。 (本当に、素直じゃないな) たしかにデリスは強い、あの3人と比べても引けを取らない程だ。 だがそれは自分独りで戦った時の場合だ。 彼の戦い方は他人を(かば)ったり守ったりする立ち回りを持たない、その事は彼自身も理解しているのだろう。だからこそダツラにトウキを(たく)したのだ。 「お前だって・・・・」 しょんぼりとするトウキに、独り言の様に投げかける。 「自分の身を自分で守れない訳じゃないだろ・・・ 」 彼なりのフォローだったらしく言うだけ言うと向き直り歩き出す。 「いざとなったら、あのヘンな光の壁にそいつ閉じ込めて逃げろよ 」 「あ、僕も危険因子なのね 」 デリスにとってダツラと2人きりにするのは、あの3人と戦うのとは別の意味での危険を孕んでいるのだ。 「時間、かな? 」 海蛇(ヒドラ)が絡みついた腕時計を見るダツラが呟く。 気が付けば辺りは夕暮れから闇夜へと変わり始めていた。 「健闘を祈るよ・・・・・一応、ね 」 例によっていらない一言を付け加えるダツラを無視して歩き出そうとしていたデリスは一度振り返る。 (デリスさん・・・・) 心配そうに自分を見つめるトウキと目が合う。 深い真紅の瞳、幼い顔立ち、真白な柔らかい髪、どれも全て『違う』のに何故こんなにも頭の奥を揺さ振られるのだろう? 小さな揺さ振りはいつか梢の様に仕舞い込んだ記憶まで(したた)って行くのだろうか?  考えを切り捨てる様にデリスは(きびす)を返すと風を切る様に走り出していた。 不安げにその背を見送るトウキはダツラを見上げる。 「ん?まあ、平気でしょ。1対1なら 」 二対一なら無理かもしれないけど。と言う言葉は流石に飲み込み、ダツラは何時もの笑みを浮かべるとトウキに向き直る。 「では、姫君。どうか夜明けまで貴方の命を僕に預けて下さい 」 そう言い(ひざまづ)くと(うやうや)しくトウキの手の甲に口付けをする。 「!! 」 どうしたらいいのかと戸惑うトウキにウィンクをすると楽しそうに話し出す。 「ま、デリスと違って僕らの場合は夜明けまで連中に見つからないようにしていれば良いだけだしね 」 素早くトウキの顎に指を絡ませると、逃れられない様にもう片方の手を腰に回してしまう。 「それに、どうせならもっと楽しい事に体力を使わないとね 」 固定するように指に少し力を込めると、お互いの瞳を覗き込む格好になる。 「んだっ!! 」 けれどもダツラが言葉を次ごうとした瞬間、大人の拳程の岩がその後頭部を直撃してきた。 勿論岩が振ってくる訳も無く、デリスの直感的なツッコミによるものだった。 「やっぱ3対1でも大丈夫そうだね・・・・・・ 」 もはや肉眼では見えない所から投げられた剛速球をまともに喰らったダツラが考えを改めて呟いた。

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