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第6章~真実纏う者のパッサメッツォ(中)~

暗闇が支配する荒野をデリスは駆け抜けていた。 「!」 自分に向けられる無数の殺気に身を(ひるがえ)しその場から飛び退くと、幾数の銃弾が今し方まで彼のいた場所に打ち込まれる。 「チッ!いきなりかよ! 」 トウキ達と別行動をとってから5分と経っていない。岩場を背にして自分を攻撃してきた男達に向き直る。 賞金稼ぎの中でもデリスやダツラはそれなりに名が知れ渡っている。依頼する側も彼等を指名してくる事も少なくない。 だがそれは同業者にとっては面白く無い話だ。 ジギタリス達を倒すついでに彼等も、そして得体の知れないダツラよりはまだデリスの方が倒しやすいと踏んだのだろう。 だが― (「ついで」なんて思ってられるか?) 鞘から剣を抜き下段に構える。冷たく青い月の光を刃が跳ね返すよりも速く、デリスは男達に向かって踏み込む。 引き金が引かれるよりも速くクレイモアが()ぎ払われ男達の腕や腹を切り裂いていく。 切り込んだ刃が骨に当たるが無理やり骨ごと払いのける。体勢を整える事もなくその勢いのまま片足を軸に、今度は回転するように剣を横にして切り込んでゆく。 断末魔と血飛沫(しぶき)が闇夜を染めて行った。 (消えない・・・・・) ほんの数秒の間に人影はなくなり静寂の中、返り血を浴びたデリスが目の前の屍を無感情な瞳で見つめていた。 記憶が鳴らす吐き気を振り切るように暴れたが、尚も揺らぎは消えない。 「ひぃ・・・・!!! 」 悲鳴が自分に向けられる。見れば倒し損ねた一人が発狂寸前でデリスを見ている。 だがデリスは正直もうどうでもよくなっていた。手ごたえの無い相手を幾等相手にしたところであの吐き気は抑えられない。逃げたければ好きにすればいい―。   男が震える身体を起き上がらせ何とかデリスから逃れようと走り出したその時― 「なっ! 」 思わず声を洩らしたのはデリスの方だった、逃げ出そうと走り出した男は一歩足を踏み出すと同時に首が消えていたのだ。 血飛沫と共に脳と言う主を失った身体は硬い砂の地面へと崩れ落ちた。   それを確認したかのように近くの岩場から一人の人影が飛び降りる、気配は全く無かった。 黒目がちな瞳、短く金色に染めた髪は所々色が落ちて黒くなっている。 手にはめた黒い皮の手袋からは血が滴り落ちている。 『首狩りのケイガイ』そう呼ばれる男は楽しそうに手袋に付いた血を嘗めながら次の獲物を品定めしている。 「探す手間がはぶけたな! 」 先程の男達とは比べ物にならない殺気を放つケイガイをデリスは歓迎した。これで何も考えずに戦える、と。 「あーっ!もう、ツイてない!! 」 デリスとは逆方向の岩場に向かって走りながらダツラは悪態を付いていた。 よもや荒野の入り口付近には現れないだろうと踏んでいたダツラは突然の奇襲に一瞬驚いた。 よりにもよって三人の内の一人クジンが現れたのだ。もっと荒野の中心部で獲物を狩っているかと思ったのだが、どうやら彼等はこの荒野にいる人間を誰一人逃がすつもりは無いらしい。 追いかけるクジンが銃弾を放つが、絶妙のタイミングで打ち返したダツラの銃弾がその軌道を逸らす。 地面に兆弾したクジンの攻撃は、火花を散らせてパチパチと電流の音を響かせる。  (電流はさすがに苦手だね) 運の悪い事に飛び道具を使う相手では、身を隠す場所の無い荒野は戦うのに不向きなのだ。 ましてやトウキを(かば)いながらでは当然である。ダツラはトウキの腕を引くと岩場の多い場所まで走り出したのだ。 どうやら敵もその方向に追い込みたいらしく挑発するような攻撃しか今の所してこない、ならばその誘いにワザと乗ってやろう。 誘い込まれたフリをして油断を誘いそこを一気に叩くしか今の所、良作は無い。   ダツラは手を引いているトウキを見る。先程から全力で走っているのだが息を切らす事無く付いてきている。意外と体力があるのだろうか―? 「ーのわっ!」 余計な事を考えていた所為では無いのだろうが、岩陰に回りこんだダツラはそのまま闇夜に飲まれてしまう。 (ダツラさん!) 足場が無かったのだ。 岩場の先は崖のようになっており気付かずに踏み込んだダツラはそのまま崖下まで滑り落ちてしまう。幸いにも傾斜は砂丘の様になっており、そこに埋もれるように落ちたのだ。 落ちる寸前で手を離され何とか無事だったトウキも所々に出ている岩を足場にして、どうにか追いかけて降りて行った。

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