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第6章~真実纏う者のパッサメッツォ(後)~
「はぁ・・・・情けない」
土埃を払いながらダツラが溜息を付くと、自分を心配そうに見るトウキの頭を撫でる。
「大丈夫!こう見えて頑丈だからね」
今一つ信用できない言葉だがそう言うと笑顔でトウキを丸め込んでしまう。
どうやら追っ手は撒いたらしくクジンの気配は感じられない。
後はどうやって上まで上るか、落ちる時にダメージを軽減してくれた砂丘は、今度は足元を掬 ってしまい登る事が出来ない。
別に這い上がれる箇所を探すため、最近よく落ちるなぁ・・・と考えているトウキを連れて辺りを散策する。
(あれ・・・は・・・?)
トウキがダツラの袖を引きある方向を指差す。
その先には僅かな光が岩場の合間から漏れており微かな人の気配もする。他の賞金稼ぎだろうか?
トウキにその場から動かないように言うと足音を立てないように気配に近づく。
「! 」
覗きこんだ先の光景に思わず唖然とする。その只ならぬ様子にトウキが慌てて駆け寄る。
(ダツラさ・・・・)
「来ちゃダメだ! 」
珍しく射るような鋭い声を出すダツラにトウキは驚く。
「これは・・・・」
目の前の異様な光景にダツラは思案を廻らす。
彼の前にある死体、死んだ人間など幾度と見てきた彼でもそれは理解の範疇 を超えている。十数体の死体がうず高く詰まれているが、どれもこれといった外傷は見られない。
端に倒れていた男がダツラに気付き目を見開いたが、それを最後に動かなくなり僅 かな気配も消えていった。
あの3人の内の誰が、それともそれ以外の人間なのだろうか。傷つける事も無く相手を死に至らしめる戦い方。
「情報を・・・集めないと 」
名ばかり有名でジギタリス達は謎に包まれた部分が多い、今回の事にしても3人がつるんでいるなど初めて知った事だ。
思案するダツラに恐る恐る近づいたトウキが死体の山に驚いた顔をする。
だがすぐに悲しげな表情をすると祈る様に目を閉じてしまう。その表情は死体に怯えているというよりは哀れみに近い悲しみと苦しみが現れている。
(ごめんなさい・・・・・)
何も出来なかった。無力さを自覚させることを現実は容赦なく突きつけてくる。
「君は・・・・ 」
その様子に逆に驚いたダツラが声を掛ける。目を開いたトウキが彼の瞳を除く。深く赤い清らかな瞳。
何故だろうか、いつもの笑いを浮かべることが出来ない。
「あ・・・ 」
必死に言葉を継ごうとするが何も頭に浮かばない。自分でも気付かない感情にそれは意図も容易く入って来るようだった。
「!?」
その事に気を取られていたため自分達に向けられた殺気に直前まで気付く事が出来なかった。
どうにか突き飛ばす形でトウキを避けさせたが、その直後に細い針のような物がダツラの首に刺さると電流がそこから流れる。
「ぐっ・・・・・・! 」
崩れるように倒れるとそのままダツラは身動き一つしない。
(ダツラさん!!)
慌ててトウキが駆け寄り揺するが目を覚ます気配はない。
「無駄だぜ、まだ意識はあるかもしれないがな。筋肉が溶ける激痛に支配されながら死ぬんだな 」
そう言いながら近づいて来る男をトウキは見上げる。
赤茶色の髪に子供染みた顔立ちと声、手に持った長い針を弄んでいる男、クジンがそこにいた。
「おまえも・・・・ 」
そこまで言うと何かに気付いたクジンがトウキを品定めするかのように見ている。
「おまえは・・・・・? 」
信じられないと言った顔でトウキを見ていたが、何かを確信したように腕を掴むと無理矢理引きずり立たせる。
「来い!あの御方がお前を探してるんだ 」
言われた方のトウキは訳が解らずに必死でそれを拒む。
誰が自分を探しているのか、音の無い声で叫んでもクジンには聞こえない。
(嫌っ!)
どうにか掴まれた腕を引き離すと一歩引き下がり光の壁を作る。ダツラを守らなければ、あの男が言ったことが本当ならまだ彼は生きている。
ならば助けられる方法はある。
その様子を見たクジンは驚くことも無く薄ら笑いを浮かべて首を傾げる。
「本当に、あの御方の言ったとおりなんだな 」
そう言うと光の壁に向かって銃弾を放つ、一瞬閃光が走ると光の壁は霧の様に虚空へと溶けていった。
(そんなっ・・・・・)
体中に戦慄が走る。信じられなかった。防壁の力を一瞬で無力化する力。そんな事が出来るのはこの世でただ一人・・・・・
無感情な声でクジンがもう一度繰り返す。
「来い!ハンゲ様がおまえを探してるんだ」
その名前を聞いて心臓が早鐘のように鳴る、思うように呼吸が出来ず息が詰まる。
(お父様・・・・・)
自分を探しているのは間違いなく神であり、自分を創造した相手なのだ。
でも何故今になって?怒っているのだろうか自分が今までしてきた事に。
困惑で動けずにいるトウキの腕をクジンが再び掴む。
何かが頭の中で囁きだす。
この男に着いていけば?
もう何も醜いものを見ずにすむのだろうか
お父様の下へ帰りたい?
何も考えずに眠れるならば
「・・・・ 」
引きずられ歩く瞬間倒れているダツラが目に映る。
すると今までの事が頭を駆け巡る、ほんのひと時だったが彼等の傍にいて見えていなかった物が見えて来たのだ。
嬉しい事も苦しい事も、彼等の近くにいて初めて得られた物だった。
「っ! 」
突き動かされるようにクジンの手を払いのけると、対峙するように真鍮製の棺を取り出す。
「ふざけんなよ!おとなしく着いて来ねーんなら」
怒りを纏 わせたクジンが銃を構える、トウキがプラチナの針を取り出そうとするがそれよりも速く銃口を頭に突きつけられる。
余りにも強さに差が有り過ぎた、経験も実力も全てがトウキを上回っているのだ。
突きつけた銃口をずらす事無くクジンはもう片方の手で長い針を取り出す。
「どうせ他の連中も生きちゃいねーよ。別のヤツが殺しにかかってる」
恐ろしい呪いのような言葉を受けても、それでもトウキは男を睨み付ける。
「ここに来た奴は全員殺せ、それがあの御方の命令だ 」
その言葉にトウキは大きく目を見開く。
嘘・・・。
お父様がそんな事言うわけが無い。
銃の存在を忘れてトウキはクジンに掴みかかるがあっさりと跳ね飛ばされてしまう。
「別に手足全部そろえて連れて来いとは言われてねーんだよ!」
唇を噛み怒りを露 にしたクジンが銃を構える。
彼ならトウキの四肢を打ち抜く事など容易いのだろう、防壁が無効なトウキになす統べはない。
引き金を引く指に力が込められる。
乾いた銃声が2発響く。
「かっ・・・・かは・・・・・! 」
だが血を流し倒れたのはトウキではなくクジンであった。
「なんで・・・・・・!何で死んでねーんだよっ!! 」
鬼のような形相でクジンが睨む先をトウキも見る。
そこには月を背に立つダツラがいた。銃を仕舞うと自分の首に刺さっていた針を廻して見ている。
「死なないよ。まぁ、電流で一時的に機能は停止してたけど」
「あの神経毒で死なない・・・・・そんな事があるか!! 」
最早ダツラの声は聞こえていないらしくクジンは血を吐きながら怒鳴りつける。
「うーん、ヒトだったら死ぬけどね」
訳が分からずにクジンはダツラを睨んでいる。だが理解できていないのはトウキも同じだった。
「Foー134lium」
どちらかと言えばクジンではなくトウキに言うようにダツラは呟く。
だがそれでも彼が発した言葉が何なのか、トウキには分からない。
するとダツラは笑いながらその言葉を発した。
「僕は人型・・・・・アンドロイドだよ 」
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