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第8章~朝露に咲くリゴドン(中)~

(きゅ~) 道が悪いのかそもそも運転に問題があるのか、上下左右に激しく暴れる車内でトウキは4回程サイドガラスに頭をぶつけてしまう。 「カッセキの所なら色々あるでしょ?部品 」 自分の腕を見ながらダツラはロカイに訊ねる。 「ええ。ありますよ。溶鉱炉が 」 「僕、着いたら真っ先に君から逃げるね」 車外に放り出されそうになるデリスの頭を押さえていたトウキは、会話の中にあった聞いた事の無いその言葉に顔を上げる。 「?」 「ん?ああ、カッセキと言うのは・・・・機械好きというか、武器マニアというか、変な人というか・・・・・ 」 どんどん喩えが悪くなってゆくダツラの答えにトウキは益々困惑する。 「正確に言えば爆弾魔ですね。他はその課程での副産物にすぎません」 若干一個、副産物にするにはおかしな喩えもあったのだがデリスが気絶しているためスルーされてしまう。 「とにかく、今はカッセキの力を借りないとね。あの電流の所為で片手が思うように動かないんだ 」 握力を確かめる様に動かす手を見つめながらダツラはそう呟く。 あの電流とはクジンの攻撃のことだろう。あの時、自分を庇った所為でダツラはクジンの攻撃を避ける事が出来なかったのだ。 贖罪(しょくざい)と不安の念からトウキはダツラのジャケットを掴む。 「ご心配なく。これ位なら自分で直せるから 」 そう言って笑うと落ち着かせるようにトウキの髪を(すく)いながら頭を撫でる。 「本当に心配をかけたく無いなら、最初から話すべきでは無いですね。今のではただ不安を煽っているだけです」 「それでも、心配してくれちゃうんだよねー 」 ロカイの言葉からダツラの本位を受けても尚、トウキは心配そうに自分の頭を撫でているう手を見つめる。 「・・・・・・・とことんお人好しですね。その内、騙されて借金の肩代わりに売られますよ」 「あ、いいねソレ!そしたら絶対買うよ。それで『ご主人様~』って呼んでもらお~」 「恋愛に対等関係を全く求めていませんね。そもそもメイドの服を着ているのは理解できますがウサギの耳と尾を生やす理由が分かりません 」 ロカイのツッコミを誤魔化すように両手を激しく振るとダツラはワザとらしく笑う。 「ヒトの思考データ勝手に読まないでくれる!? 」 恨みがまし気にロカイの方を見ながらダツラが返す。 「『お赦し下さい御主人様。』『この程度の仕事も出来ない駄目っこにはオシオキが必要だね。』『痛いのはイヤです~。』『それはキミ次第かな?』」 「わぁ~~~(゜ロ゜屮)屮!!!ほ・・・っほらカッセキの所ならその剣も直せるでしょ?」 今度は激しく動揺したダツラがどうにか話題を逸らそうとデリスの剣を指さす。 一応鞘には収めたものの完全に2つに折れてしまった上、刃も所々欠けてしまっている。 「た・・・・確か・・・デリスも知り合いだったっけ? 」 「主人(マスター)の名は有名ですから 」 悪目立ちと言う意味で、とロカイは最後に付け加える。  「・・・・・・・」 不意にジギタリスの言った言葉が甦る。 ―つまらない唯の人殺し― あの時デリスを救った事に後悔は無かった。 けれど結果として自分は選り分け得る立場となってしまった。 神にも等しい所行。そんな事自分がして良い訳が無い。 あの時、身体の奥から湧き上がる感情。彼を助けたいと言う気持ち、これはいったい何なのだろうか。 「・・・・・・・・」 眠るデリスの顔を見つめる。 彼がどんな思いで行動して、どんな過去を背負っているのか少しでも知る事が出来たならこの迷いも消えるだろうか。 それとも知るだけ無意味なのだろうか?自分の得たい真実を手に入れた所でジギタリスが言ったように傷つき絶望を見るだけなのだろうか。 「別に僕もデリスの事全部知っている訳じゃないし。そもそも出会ったのも半年前ならそれ以上に興味もわかないし 」 迷いに曇る心を見透かした様にダツラがそう切り出す。 「別にいいんじゃない?無理して相手を分かろうとしなくても。迷いなんて結局自分の中でしか解決出来ないんだし。答えを見つけるまで迷いの一端を受け止める位でもヒトは安らぐものだよ? 」 そう言い再び頭を撫でるとトウキも少しだけ落ち着いた様だった。 「先程もそうでしたが、手慣れていますね。頭を撫でるのが 」 「分かる?元から組み込まれてる動作だけど撫で方にも結構コツがいるんだよね~ 」 先程の真面目な言葉は何所へ行ったのか、ロカイの一言でダツラは嬉々として話し出す。 「個人差はあるけど、一番警戒心を無くして気持ちよくさせる方法?なんて言うか性感帯じゃないけど、似たような箇所が頭にもーーー痛っっあ!! 」 「3原則内なら多少の暴力行為も可能です」 運転席からのロカイの水平切りが首に入ったダツラは、文字通りサイドガラスにぶつかり静かになってしまった。 (迷いを・・・・) そっとデリスの横顔を眺める。あの時、あの暗がりの中で確かに彼は自分の迷いを受け止めてくれた。それは自分にも出来るのだろうか。 万が一にも、訪れないかもしれないが。もし彼が迷いや胸の闇を見せたならその時は受け止めたい。たとえ地に堕ちた存在であっても、迷いを超えて飛び立つ支えになれるなら。 (がんばり・・・・ます) 未だにトウキ自信の中に在る迷いも消えたわけではなかったが、新に生まれたその思いは少年を前に向けさせる。 「いいな~。あそこまで想ってもらえて・・・ 」 「その性的欲求を25%抑えたら同じ行為を受けられるのでは? 」 フロントミラー越しにぼやきを洩らすダツラは、それでもロカイの提案を受ける気など更々無かったのだった。

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