29 / 42

第10章~天使のアリア(前)~

昼下がりの柔らかな日差しが部屋に差し込みガラクタの山を照らしている。 デリスの剣が直らない事と全員の体力が回復しない理由から3人がカッセキの住処に滞在して4日目になる。 トウキはガラクタの中からスプレー缶を取り出しロカイに見せる。 「銃用のガス圧ですね。改良に失敗してただ大きいだけの代物になってしまいましたが 」 ロカイは淡々と答える。 相変わらずカッセキは武器を作るのに勤しんでおりダツラは今朝方から姿が見えないでいた。 謎だらけの物体が(うずたか)く積み上げられた山を前に手に取っては首を傾げるトウキを見かねたのかロカイは先程から一つずつ説明をしている。 意外と面倒見が良い所を見ると、年の離れた姉弟のようにも見える。 「・・・・?」  今度は小さな箱を取り出すとロカイに見せる。 「俗に言う『大人の玩具』ですね。使い方は・・・・ 」 「だああーーーー!!止めーーーーっっ!!」 説明を打ち消すように部屋に入ってきたデリスが大声でツッコむ。昨日まで体調が悪かったのが嘘のようだ。 (びっくりしました) 「相変わらず不躾ですね 」 「いいから、ソイツと2人で話させろ 」 ロカイを追い出すようにデリスは手をヒラヒラとさせる。 「では、私はこれで失礼します」 (色々教えてくれてありがとうございました) 立ち去ろうとするロカイにトウキはお礼の意味を込めて微笑む。 「・・・・・・・・・そこの男はヘタレなので心配は無いかと思いますが、何か危険を感じたら戸を叩いてください 」 「聞こえてんだ。よテメェは・・・・ 」 怒りを堪えるデリスなど気にも留めずにロカイはさっさと出て行ってしまった。 「・・・・・っ!」 「?」 埃だらけの部屋にトウキとデリスは向かい合う形で居る。自分でこの状況を作った筈なのにデリスは中々話し出そうとしない。 (お加減はいかがですか?まだどこか痛むところは・・・・・) 「やめろ・・・っ」 心配をして近付こうとするトウキをデリスが声で制する。 けれども下唇を噛むデリスの顔は益々苦しそうになる。 躊躇(ためら)うようにデリスは一度顔を背けたがやがて重い口を開く。 「・・・・・なあ 」 何かを断ち切るように一度頭を大きく振ると蟠(わだかま)っていた疑問をぶつける。 「何で助けた?」 (・・・・え?) そう言われたトウキは逆に困ってしまう。 『助けた』と言うのはデリスの傷を回復した事なのだろう。目の前に瀕死の相手が居て自分が助けられる手段を持っているなら天使でなくても使うだろう。 人はそういうものだと、時に無償の哀れみを注げるものなのだと思う。 デリスも、幾度も己の闇に潰されそうになるトウキを助けてくれた。 だからこそあの時助けたいと強く想ったのでは無いだろうか。 そんな想いからトウキは笑いながら小首を傾げる。 「違うんだ!」

ともだちにシェアしよう!