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第10章~天使のアリア(後)~
「あ、いたいた。2人とも・・・・」
「・・・っ!! 」
丁度のタイミングで入って来たダツラは、反射的に攻撃したデリスの当て身を受けて床に突っ伏しながら文句を言う。
「まだ何も言ってないんですけど・・・・・ 」
「黙れ!! 」
顔を赤くしたままのデリスは突っ込みもままならない様子で、今度はガラクタの山に八つ当たりをし出した。
「・・・・何があったの? 」
困惑したダツラがトウキに尋ねる。
(えっと・・・・・・)
「だああーーーーーーー!!!! 」
身振りでどうにか説明しようとしたトウキをデリスの大絶叫が止める。
(きゅ~~~??)
「ちょっ・・・集積回路がイカレるって! 」
「さっさと次の仕事いくぞ! 」
文句を言うダツラを無視してデリスは目を回しているトウキの腕を掴むと、目的も分からないまま部屋を出て行こうとする。
「ぜってーに言うなよ!特にダツラには! 」
入り口付近で手を離しトウキに向き直るとバツが悪そうに頭を掻きながらも、どうにか念を押す。
「?」
言われたトウキは相変わらず不思議そうに小首を傾げてデリスを見上げている。
「だからっ・・・・・! 」
先程の行為の意味が分からないでも無いだろうに。
分からない?
いやいやいやいやいや・・・・・・・・流石にいくら何でも。
「嫌・・・・じゃ・・・なかったのか? 」
どう尋ねていいものか分からずに口から漏れたデリスの言葉に、トウキは少し考えたが何事も無いように頷く。
(デリスさんが元気になってくれたなら嬉しいです)
慈愛に満ちた微笑みだが、デリスにとっては痛恨の一撃だ。
(だああ~~~!!こいつ意味ぜってー分ってねーー!)
成就した訳でもフラれた訳でも無い恋心。
脱力感に崩れるデリスとそれを見て分けが分からずにオロオロするトウキ。
「いやー・・・。ほんと、何があったの? 」
半ば呆れた様子でダツラはもう一度声を掛ける。
「ツッコミ疲れ~?」
「お。そろってんな 」
再び現れたロカイと共にカッセキがそう言いながら部屋に入ってくる。
「仕事でも見つかったのですか? 」
「まあ、それなりに」
ロカイの問いに答えたダツラは確かめるように弾倉を再装填させる。
よく見れば五芳星に磔にされた骸骨がグリップに掘り込まれている。刺青と言いアクセサリーと言い彼の周りには骸が溢れている。
「そうか、間に合ったみたいだな」
カッセキは満足げにそう言い剣をデリスに投げ渡す。
「・・・・重くなってねーか? 」
「ま、あり合わせの金属で直したからな 」
閉口するデリスとは裏腹にカッセキは何故か自慢げに語りだす。
「その分頑丈にはしたつもりだ。その方がお前に合ってるだろ? 」
鞘から抜くと刃は相変わらず冷たい輝きを放っている。まるで彼自身の心を反射しているようにも見えた。
(デリスさん・・・)
トウキは悲しげにその輝きを見つめる。剣が直れば彼はきっとまた無茶をする。
彼が傷付く姿を見るのは辛い。
「ああっ・・・・!さっさと次の仕事いくぞ!! 」
急いで剣をしまうとトウキの頭を持って無理やりに歩き出す。
剣を抜いただけでこんなに罪悪感を感じたことは無い。
「あ!ちょっと待って。これこれ・・・ 」
言うが早くダツラがトウキの頭に素早く乗せる。
「・・・・なんだこれは」
ダツラがトウキの頭に乗せた物。白くて柔らかそうな。
「ネコミミ 」
「この先必要か?これ 」
「全然 」
事も無げにしれっと答えるダツラにデリスが怒髪点を付く。
「テメェはっ!朝からいねーと思ったら!!」
この男はその情熱をもう少し別の事に注げないのだろうか。早速直ったばかりの剣でダツラに切り掛かる。
「もしかして尻尾?尻尾もご所望でしたか!? 」
「切り殺すっ! 」
白刃取りで受け止められた剣に更に力を込める。
「あ!ダメだよ?ウサミミは僕と2人っきりの時専用なんだから」
「そういう問題じゃねーー!!」
尚もふざけるダツラと2人を止めようとオロオロと立ち回るトウキ。3人にとっては日常茶飯事の事なのだが傍から見れば迷惑極まりない。
「主人 。全員追い出していいですか? 」
「こいつらは・・・・ 」
呆れるカッセキ達をよそに相変わらずの騒がしさを見せる3人だった。
「それじゃ。また」
来た時と同じく傾いた建物の前で、手をヒラヒラと開閉させながらダツラが別れの挨拶をする。
「次に会う時は廃材になってるといいですね」
「君は次に会うときまでに言語中枢を直してもらっておいてね」
最後まで棘のある言葉に流石のダツラも泣きそうになる。
「ま、そっちのガキの分はちょいと時間がかかりそうだからな。出来上がったら届けてやるよ」
そう言ってカッセキは笑う。尤も彼が力を入れるとトンでも無い物が出来上がりそうな気がするが。
「・・・・・ 」
笑顔でトウキが手を振る。それは最近知った別れの挨拶、不思議な動作だがまた会いたいと願う気持ちも含まれているらしい。
そう言えばデリスもダツラに向かってよくやっている。彼は手を払いのけるように降っているが。
「お気を付けて」
そう答えたロカイは何時もの無愛想な顔ではなかった。ほんの少しだが綻 んだきがしたのだ。
「あれ?いつの間に仲良しに!? 」
ダツラが不思議そうに聞く。彼としても彼女のこんな顔を見たのは初めてなのだろう。
「その2人は盛りのついた獣ですから 」
「って俺もかよ!! 」
ツッコんで直にデリスは先程の事を思い出して怒りが収束してしまう。
(コイツと同じなのかよ!)
「何?」
怪訝そうな顔でデリスはダツラを見る。彼は極自然にトウキの身体に背中から腕を回している。
「ぜってー認めねぇからな!! 」
「だから何!? 」
そう言って踵を返して歩き出すデリスを慌ててトウキも追いかける。多少ムッとしていたダツラだが、それでも2人の後に続く。
「・・・・・・ 」
早足で歩くデリスに追い着こうと小走りになりながらも、トウキは後ろを振り返るとロカイが手を振っているのが見えた。彼女なりのトウキの別れの挨拶の答え方なのだろう。
また会えますように。
そう願いを込めて彼もまたもう一度手を振る。
「はぁ~・・・惜しかったな・・・ネコミミ」
よほど名残があるのか、ダツラは溜息をもらす。
「テメーはまだ言うか! 」
噛み付く勢いでツッコむデリスを見てトウキは小さく笑う。
こんな風に変わらない時間の中でもっと沢山の事を知っていけたら、2人の傍で喜んだり悲しんだり戸惑ったりしながら少しずつ歩いてゆけたのなら。
今が限られた時間だとは知っていてもそう願わずにはいられなかった。
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