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第12章~歪なメヌエット(中)~
銃弾を掠め避け、振り下ろされる刃物を足で薙ぎ払う。
「こいつら!どっから!? 」
西日に茜く染まる川縁には無数の人間がデリス達を囲んでいる。
姿年齢は様々だが目的は一つなのだろう。隠す事の無い殺気のまま襲い掛かって来る。
「わっ、と!」
理由を説明する暇も無く両脇からの攻撃をかわしたダツラは2丁の銃で応戦する。
「クソッ!次から次に湧いて出やがってっ!」
剣を振り上げ目の前の敵を一掃し、その隙を狙い斬り付けて来る相手を廻し蹴りで沈めたデリスは唇を噛む。
現状ではトウキをここから逃がす事は不可能だ。それどころか先程より更に数を増した敵を見るに、この場を切り抜けるのも難しい。
「っ!しまっっ!!」
考え捲 ねるデリスの攻撃をすり抜けた1人がトウキへと持っていた刃物を突き立てる。
「っ!」
寸での所で回避したトウキは足を軸に腹へ当て身を喰らわせると、体勢を整えるよりも先にポケットに手を入れる。
(堕天の力よ・・・・)
堕天使の姿になれば少しは2人の戦力になれる。何よりこれ以上彼に嘘を吐きたくない。
迷いはもう無かった。
だが――
「久しぶりだな 」
楽しげにそう吐かれた声に身体が強張る。その隙を付かれ、真鍮製の棺を持った手を捕まれ後ろに捻(ひね)り上げられてしまう。
「!!」
叫びを飲み込んだデリスの頬を刃が切りつける。
血が滲み地面へ跳ね落ちるが、それも気付かない程目の前で展開してゆく光景に凍り付く。
だがそれは直に沸き立つ怒りへと姿を変えた。
「っ・・・テメエは!」
赤いメッシュを入れた髪の男、ジギタリスがトウキを羽交い絞めにしている。
「・・・・っ!・・・・っ! 」
足掻く度に筋を這う痛みが走るが、それでも振り払おうとトウキは腕に力を入れる。
けれどもそんな動きなど気にも留めずにジギタリスはトウキの顎を掴むと自分の方へ向けさせる。
「時間切れなんだよ。もう 」
そう放たれた言葉に冷たい衝撃が走る。
「ふざけんなっ!テメエっっ!! 」
周りの敵を薙ぎ倒したデリスが切り掛かる。だがトウキを捕まえたまま、ジギタリスはその攻撃を跳躍で避けると護岸の外へと着地する。
「くそっ! 」
この距離では次の攻撃か当たる前にまた避けられてしまう。遠距離の攻撃が出来るダツラは再装填する隙も無い程に敵からの攻撃を受けていた。
「悪いが今日はお前達の相手をしてる暇は無いんだ 」
そう言い嘲(あざけ)る様に笑うジギタリスの手には、蠢く閃光を中に秘めた結晶が握られていた。
「続きは、地獄でやるんだな 」
ジギタリスは冷笑を浮べ結晶を手から離す。
「っ! 」
束縛から逃れられないトウキはそれでも細い腕をデリスの方に伸ばす。
(デリスさん!)
「トウキっ! 」
その腕を掴もうとデリスは駆け出していた。他の事など頭から抜け落ちて目には映らない。
地面に落ちた結晶は簡単に罅割れ粉々に砕け散る。淡い光が虹彩に映った後に、目が眩む閃光が辺りを覆う。
「なっ・・・! 」
そう洩らした言葉を最後に、デリスは体に走る痛みから意識を手放してしまう。
(待ってくれ・・・)
そう叫んでみても声には現れる事無く体は地面へと崩れ落ちて行った。
「・・・・くっ・・・ 」
地面に爪を立てる感触でデリスは目を覚ます。
強張る痛みが全身に纏わり付くが無理やり体を起こす。一体どれ位自分は意識を失っていたのだろう。
「何だ・・・・! 」
辺りを見回したデリスは驚きに声を洩らす。
河川敷には先程まで戦っていた敵が事切れた躯を晒している。
「何なんだ」
遺体の衣類には所々焼け焦げた跡がある。あの閃光によるものなのだろうか。
外傷も殆ど無く何故彼等が死んだのか、何故自分は死ななかったのか。
ジギタリスも襲い掛かって来た敵も同じ仲間だと思っていたのだが違うのだろうか。
「クソッ!」
疑問は幾つも湧き上がったが今はジギタリスの行方を捜さなければ。
あの場で自分達と一緒にトウキを殺さずに連れ去ったという事は何か意味があるのだろう。けれども何所に検討をつければ良いのか。
「どうすりゃ・・・・」
苛立たしさに壁を殴ると視線はその先に居るダツラを捉える。手に持った何かをじっと眺め思案を巡らせているように見える。
「おい!何があったんだ! 」
「分らない。ジギタリスが持っていた結晶にヒトには致命的な電流が入っていた。原理も理屈も不明だけど 」
デリスの問い掛けを差して気にも留める分けでも無く、ダツラはそう答えると再び考え込んでしまう。
「目的はトウキ君を連れ去る事。その為なら同胞を犠牲にすることも厭わない」
以前見た情報をなぞるように淡々とダツラはそう付け加える。その落ち着いた言い方が逆にデリスの怒りに火を付ける。
「そこまで分ってて!テメーは黙って見てたのかっ!!アイツが連れ去られるのを、むざむざ! 」
ダツラの胸倉を掴み苛立ちをぶつける。
「その言葉、そのまま返すよ! 」
その手を強くダツラは払い除ける。口調は静かだが彼もまた瞳の奥に怒りを湛えている。
暫しお互い睨み合いが続く。
「だいたい、あの電流でどうしてヒトの君が生きてるんだか・・・」
吐き捨てる様にそう言い、目を逸らしたダツラの言葉にデリスは頭を射抜かれたような衝撃を受ける。
あの時、閃光が辺りを覆うよりも先に一瞬だけ見えた淡い光。あれはトウキの防壁の力ではないだろうか。
だからこそ多くの屍の中自分は生きているのではないか。
だとすればあの瞬間トウキが腕を伸ばしたのは助けを求めたのでは無く自分を助けるため?
「クソッ! 」
奥歯を噛み締め壁を殴る。自分は何をしているのだろうか。
「とにかく。僕はアイツを追うけど? 」
「場所、分るのか?」
密やかに笑んだダツラをデリスは低い声で睨み付ける。
「僕は確証の無い事はしないよ? 」
デリスの怒気にも怯む事無くダツラは不適な笑みを浮かべる。
人と違いアンドロイドである彼には直感や閃きという物が存在しない。
過去の出来事と目の前に散らばる情報を交差させ結びつけ、確実な答えを導き出したのだ。
「さっさと行くぞ」
その事を本能的に理解したデリスは、答えを聞くよりも早く踵 を返し走り出す。
西の空は既に紫色に変わり出していた。
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