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第13章~disperazione oratorio(中)~
「・・・・っ! 」
けれども僅かに見えた勝機の道は他の二人の男によって閉ざされてしまう。
ジギタリスにばかり注意を払い過ぎて直ぐ傍まで近付いていた事に気付けなかったのだ。
後ろから押し倒され床に顎を強かに打ち付けると目の奥で火花が飛ぶ気がした。
それでも逃れようと足掻くトウキに後ろから伸ばされた手がその服を引き裂いてゆく。
「っっ! 」
訳も分からずに息を呑むトウキを男達が仰向けにする。
「やるじゃねーか」
脇腹を押さえたジギタリスが楽しいと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「っ!? 」
両腕も両脚も男達に抑え付けられている所為で身動き一つする事が出来ない。
嫌がるトウキの頭を掴み無理矢理開かせた口にジギタリスは舌先を滑り込ませる。
「っっ 」
歯列をなぞり逃れようとする舌を絡め獲る。
声の無い悲鳴の上がる口に唾液を流し入れジギタリスはようやく唇を離す。
「男を犯すのは好きじゃないんだがな」
そう言うと次の言葉を継ぐよりも速くトウキの白い喉に噛み付く。
「・・・・っ!! 」
痛みと恐怖が肺からせり上がって来る。胸に腹に、血が滲む程強く噛み付かれ幾度と無く声に成らない悲鳴が上がる。
(・・・・・い・・・や・・・・)
どうにか伸ばしたトウキの腕を押さえつけ躊躇無く残りの衣服を剥ぎ取ると、ジギタリスは硬く熱り立った精器をトウキの後孔にあてがう。
「っ!! 」
恐怖が思考を鈍らせる。行為の意味は解らずともそれが屈辱的である事を本能が告げる。
無我夢中で暴れるトウキにジギタリスが平手打ちを喰らわせる。
「大人しくしてろよ」
冷たくそう言い放ちトウキの抵抗が無くなるまで頬や腹を打ち据えて行く。
「・・・・・・」
力が入らなくなる程殴られたが、それでも歯を食いしばりジギタリスを睨む。
「言っただろ。ウサギが噛み付いた所でどうにもならないってな」
嘲笑う様にそう言うと、ジギタリスは一気にトウキを刺し貫く。
「~~~~っ!! 」
引き裂かれる様な痛みがトウキを襲う。呼吸が出来ずに身体中が拒絶を示す。
無理矢理抉られた場所から血が伝い落ち床を汚してゆく。
絶え間なく襲い続ける痛みに、意識の灯火が徐々に消えてゆく。
「気ぃ失うにはまだ早いぜ」
舌打ちと共にトウキを打ち据えたジギタリスがそう言うと、上着から小さなケースを取り出す。
開かれたケース中には藍色の液体に満たされた注射器が一本収められていた。
「それは・・・・! 」
トウキの腕を抑えていた男が息を呑む。
彼等の間でもジギタリスの行おうとしている行動は禁じ手の様だった。
「睡姦なんて萎えちまうだろうが。それに・・・」
無感情にそう言うとジギタリスは針先をトウキの首に宛てる。
「良いんじゃね。死んでも? 」
ジギタリスの声が冷たく響く。
(嫌・・・だ・・・)
どうにか開いた瞳が自分の首筋にある針を見詰め、唇が弱弱しくそう動くとそれを待っていたかの様に注射器の中身が送り込まれる。
「っっ! 」
液体が自分の血液の中を流れて行くのが分かる。
耳の奥で煩く心臓が鳴り、痛みを先程よりも鮮明に感じる。引き摺り出された意識が五感を燃やしていく。
「お前らもボサッと見てねーで手伝え 」
尚も腰を激しく打ち付けながらジギタリスが2人の男を促す。
(嫌だ嫌だ嫌だ・・・・)
髪を掴まれ精器を咥えされられた口を揺さぶられる。何度咽せ混んでも離して貰えず、口の端から白濁の液体が滴り落ちるのと同時に顔に精液を浴びせ掛けられる。
男達が代わる代わる、もう何度熱を放たれたか分らない後孔は抽挿を繰り返す度に白い液体が零れ、最初に落ちた血と混ざり合っていく。
それでも涙が頬を伝う事は無かった。
「なんでこんな目に会うか教えてやろうか?」
唾液と精液に汚れたトウキの髪を掴みジギタリスが笑う。
ジギタリスと目が合うと彼の口が開く。
「お前が天使だからだよ」
掴んでいた手を離し、精器を咥えさせていた後孔に指を入れ爪を立てる。
(・・・・・・)
天使だから。
鮮血と共にその言葉もトウキの身体から落ちていく。
「あいつ等、これを見たらどう思うかな? 」
いっそ気が狂ってしまいたい程の責め苦を受けるトウキに、ジギタリスは笑いながらそう耳元で囁く。
「・・・・っ」
記憶の中の相手に助けを求めたのかそれとも最後の抗いなのか、弱々しく伸ばされた小さな手をジギタリスは冷たく払い除けた。
「本当にここでいいのか? 」
暗く地下へと伸びる階段を睨みながらデリスは呟く。
「間違い無いよ 」
腕を組みダツラはそう返す。
二人の姿は先程の河川敷から近い裏路地に、見落としそうに成る程極自然に作られた入り口にあった。
意外にも見えるが、幾らジギタリスでも人目に付く事無く人一人抱えて街中を逃れるのは無理がある。
それにあれだけの敵が此方に気付かれる事無く行動を取るには、この街の何処かに潜伏出来る場所があるからでは無いか?
予想を確証に変えた1人の男が身に付けていた紋章だった。服の袖口に小さく縫い付けられたその紋章は意味を知らなければ見逃していただろう。
一つ目の梟が百合の花を鷲掴みにしたその姿は、ある教団のシンボルである事はセンタイから得ていた情報で直に判明したそしてその教団がこの街の地下に支部を設けている事も。
『コミット キャンドル』『ジギタリス』『トウキ』全ての点が線で繋がった時この場所が浮かび上がったのだ。
「本当にここなのか? 」
下へと伸びる金属製の階段を駆け下りながらデリスはもう一度呟く。
大よその話はダツラから聞いていたが今一つ腑に落ちない。今までの組織に比べれば此処は支部と言うより暗渠に近い。
下へ横へと蟻の巣の様に縦横へ広がる地下道は幾つかの部屋に分かれていた。
ベッドと机のみの簡素な造り部屋は確かに人の居た痕跡を残すが人の姿は見られず、それどころか気配さえ感じない。
「クソッ! 」
苛立ちにデリスが扉を蹴る。時間が経てば経つ程トウキの命は危険に晒されていく。
「なあ・・・・・ 」
扉に手を掛けたデリスが、頭の中に渦巻く疑念を口にする。
「アイツが連れ去れたのは・・・俺達の所為なのか・・・?」
「それは・・・! 」
問われたダツラも困窮する。
余りに不確かで突拍子も無い現実にダツラは敢えて説明して居なかったのだ。
けれども言うべきなのだろうか、せめてトウキがこの教団と関係している事だけでも。
「っ・・・・!」
ダツラが口を開くよりも先に扉を開けたデリスが部屋の奥へと駆け出す。
剥き出しの鉄が床と壁を造るその部屋は、何も置かれていない分他の部屋よりも広く造られているようだった。
「トウキっ!」
部屋の中央に打ち捨てられるように倒れていたその身体をデリスは抱き抱える。
だがその声に投げ出された肢体が動く事も、光彩を失い微睡む赤い瞳が開く事も無い。
ただほんの少し身体を強張らせるだけだった。自分を呼びかけているのが誰なのか判らず、抵抗しようにも傷だらけの身体を動かす事も叶わない。
「くっ・・・・ 」
トウキの身体を見れば何をされたのか、怒りをぶつける場所も小さな身体を落ち着かせる方法も分からずにただ抱き抱えた腕に力を込める事しか出来ない。
「・・・・・」
脱いだ自分のジャケットを覆う様にトウキの身体に掛けると、ダツラは怯えさせ無い様にその身体をゆっくりと自分の方へ抱き寄せる。
「大丈夫だから、ね?」
手でトウキの両目を覆い耳元でそう囁くと腕に掛かる重さが増す、どうやら本当に意識を手放したようだった。
「とにかく、早く治療をしないと」
眉根を寄せたダツラがどうにかその言葉だけ吐き出す。
外傷もさる事ながら内因的な傷を受けていないとも限らない。異存無くデリスも無言で頷く。
「っ・・・・! 」
立ち上がった2人の傍を銃弾が掠める。見れば扉とは逆方向に、ショットガンを構えたジギタリスが薄ら笑いを浮かべて立っている。
「行けっ! 」
鞘から剣を抜いたデリスは一言それだけ言うとジギタリスに向き直った。
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